フィンガーマン
封筒を開けると中には手紙が入っていた。

「親愛なるフィンガーマンへ
この手紙を見つけてくれたのがあなたであることを切に願います。
あんな形でのお別れ本当にごめんなさい。
面と向かって……って言っても顔も見えないし、声も聞こえないけど直接言う勇気がなくてお手紙を書きました。
もしかしたら見つけてもらえないかもしれないお手紙に違和感を感じてると思います。

正直ね、知らないでくれたらいいなっていう気持ちもあったの。
卑怯な人間で本当にごめんなさい。

私が何故いなくならなければいけないのか説明します。
私には桃園まどかちゃんというお友達がいます。

昔はそんなに仲良しだった記憶は無いんだけど、学校が離れてからまどかちゃんからよく連絡をくれるようになって仲良くなりました。

でも専門に入ってからは私忙しくて、まどかちゃんとだんだんと疎遠になりました。
そんなある日、まどかちゃんから久しぶりに遊びに誘われたの。
8月21日火曜日に。

でもフィンガーマンにその日は家から出ないように言われたから改めて断りの連絡をしました。
そしたらまどかちゃんの様子がおかしくなって「会ってくれないと死ぬ」って。
別の日にしようって言ってもその日じゃないとダメの一点張り。

その後フィンガーマンに女子大生刺殺事件の詳細を教えて貰った時は本当に驚きました。
まどかちゃんが危ない、助けなきゃって思って、私、フィンガーマンに黙ってまどかちゃんに会いに行きました。

そしたらね、まどかちゃん「どうして会ってくれないなんて言うの?」って怒ってて「大切な日なのに、私と菜摘の大切な日なのに」そう言って泣いていました。
でも私、8月21日が何の日か分からなくて困っちゃって。
「私が引っ越してきて初めて菜摘と会った日だよ」って言われました。
そうなのかな?全然覚えてない。
それからまどかちゃんは私との思い出を話してた。
どれも記憶にないエピソードで私にはなにがなんだか。

それにそろそろ事件の時間が迫っているから危ないと思って「帰ろ?」って言いました。
そしたら「なんでそんなに帰りたがるの?最近全然連絡くれないし、私たち親友なのに」まどかちゃんは怖い顔で言った。
でも私も焦っちゃってたから「新しい友達と遊べばいいじゃん、もう帰ろうよ」って。
それがたぶん良くなかったみたいでまどかちゃんの様子がおかしくなりました。
聞き取れないような声で何かブツブツ言い出して「どうしたの?」って近寄ったら急に腕が熱くなった。
いつの間にかまどかちゃんの手に握られていた包丁が私の左腕を切りつけていました。

急激に痛みを感じてびっくりしたし私はパニック状態。
とにかくやめさせなきゃって揉み合いになりました。

それで揉み合ってる時にまどかちゃんがつまづいて後ろに倒れて、私も巻き込まれて覆い被さるように倒れました。
転んだらようやくまどかちゃんが大人しくなってホッとして立ち上がったらまどかちゃんのお腹に包丁が刺さってた。

そうか。
あの刺殺事件の犯人は私だったのか。
私はようやく気がつきました。
そもそも私が公園に行かなければまどかちゃんは死ぬことはなかった。
私も失踪することはなかった。
全部私のせいだったんだね。

あなたに会わせる顔がなかったけど、最後にどうしても会いたかった。

あなたに出会えて毎日楽しかったです。
今までありがとう。
これから私はまどかちゃんのところに行きます。
もう私のことは忘れてください。

さようなら、私のフィンガーマン。

植野 菜摘より」
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