フィンガーマン
『で、どう思う……?』

引っ越してからの経緯を説明した後、さっそくあの録音した音を同僚の館林と森に聞かせた。
ゴツイ方の男が館林で唯一の同期入社生き残りである。
森は細身で眼鏡を掛けている一期下の後輩だ。

こう見えて館林は霊感があるらしい。

『うーん……』

なんとも言えない表情の館林に肩を落としつつ懇願の表情を向ける。
リピート再生にしてある録音が不気味に沈黙に妨げていた。

『そうだなぁ…これだけじゃなんとも言えないな…』
『は、はは……そうだよな…』
『悪いな』
『いや、こっちこそ』

あからさまにガックリした俺に館林は申し訳なさそうにしていた。

『あの、これってモールス信号じゃないですか?』
『え?』

熱心に録音を聞いていた森が少しテンションを上げて言った。

『これ、指で叩いてる感じの音だから長音が分かりにくいけど何回か聞けば分かるかもしれない』
『お、おい、本当か?』
『はい、ちょっと待ってください』

そういうと森は紙とペンを出して黒丸と棒線を書き始めた。
書き上げたと思ったらぐしゃぐしゃと書き消す。

『え?おい』
『あー、分かりました。長音の時擦ってますね』
『は?』
『注意深く聞いてないと気づかないと思うんですけどシュッて音合間に聞こえますよね?』

言われて耳を澄ませるとそんな音が定期的に聞こえるような気がする。

『おそらくこう鳴らしてますね』

森の手元に注目する。

・・―・
・・
―・
― ―・

・―・
― ―
・―
―・

― ― ― ―
・―・―・
―・・・・・
・―・―・
―・―

さっぱり意味が分からない。

『で、なんて言ってるんだ?』
『うーん…たぶんですけど』
『ああ』
『・・―・がF』
『そういうの良いからさっさと言えよ』

しびれを切らせた館林が突っ込む。

『分かりました。じゃあ言いますね』
『ああ』

ゴクリと溜まった唾液を飲み込む
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