おじぎ草ときみと(短編集)
「またな」
【「またな」】
数年ぶりに開いた卒業アルバム、最後のページ。
友人たちからの寄せ書きの中に、雑なくせ字で「またな」とあって苦笑した。
また、と言ったわりに、あれから一度も会っていない。むしろ連絡先も、進路すらも教えてくれなかった。
地元を出て他県の大学に進学したらしいという話は、人づてに聞いた。
日本はどれだけ広いと思っているんだ。人口は何人いると思っているんだ。住んでいる場所も進路も連絡先も知らない、手掛かり無しの状況で、本当に「また」会えると思っているのだろうか。
また会う気がないのなら。こんな気持ちにさせるのなら。「じゃあな」と書いてほしかった。
「……じゃあね」
呟いてアルバムを閉じ、がら空きの本棚に差し入れた。
(了)