おじぎ草ときみと(短編集)
お花見
【お花見】
昨年も一昨年も予定が合わなくて、ふたりでお花見ができていなかったから。今年こそは絶対に行こう、と。随分前から計画して、仕事で諸々の調整をして、やっとのことで休みを合わせた。というのに……。
ゆうべから降り始めた雨は朝になっても、昼を過ぎてもやまなくて。むしろ雨足はどんどん強まり、激しく窓を打ち続けていた。
「お弁当も作ったのに残念だね」
呟くと、ソファーに寝転がって外を眺めていた彼は勢い良く起き上がり、テーブルと座布団をリビングの隅に退けた。
突然のことにただ黙ってそれを見つめていると、彼は空いたスペースにレジャーシートを広げる。そこにお弁当やビールを並べ、ノートパソコンの画面に桜の画像を表示して「さ、花見しようか」と言った。
桜は画面の中だけだし、花の香りも賑やかな声もない。
それでもわたしは、このお花見を、ずっと忘れないだろう。
(了)