おじぎ草ときみと(短編集)
おじぎ草ときみと
【おじぎ草ときみと】
同棲を始めるため、ふたりであれこれ買い物をした、帰り道。花屋の店先でおじぎ草を見つけて、立ち止まった。
懐かしい記憶が蘇ってきたからだ。
昔、彼――敬くんの部屋にはおじぎ草の花鉢があった。
葉にちょんと触れると、ふわぁっとした動きで閉じていくというのが可愛くて、育て始めたらしい。
毎日たっぷり水やりをして、葉っぱをちょんちょんつついて、敬くんなりに楽しんでいたみたいだけれど。それは一ヶ月も経たないうちに枯れてしまった。
花鉢を片付けながら敬くんは「まあ所詮は草だしね。花も咲かないし、大樹になるわけでもないし、こんなもんだよ」と早口で言った。わたしも「そうだね」と頷いて、きっと内心ショックを受けているであろう敬くんのそばにいた。
けれど。
あとで調べてみたら、枯れた原因は水のやりすぎと葉の触り過ぎで、夏頃には可愛らしいピンク色の花を咲かせるらしい。育て方が悪かっただけだった。
花鉢の前にしゃがんで敬くんを見上げると、敬くんも昔のことを思い出したのか、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
今度は花が咲くかもしれないよ。ふたりでリベンジしてみよう。
笑いかけて、花鉢を持ち上げた。
(了)