おじぎ草ときみと(短編集)
大人になる
【大人になる】
ついこの間までびーびー泣いて、いつもわたしの後ろに隠れて、背中にしがみついていたってのに。
スーツを着てネクタイを締めただけで、随分変わるものね。
言うと彼は「おまえは俺の母ちゃんか。同い年だろうが」と呆れた顔をした。
幼稚園のときから仲良くしている幼馴染みは、この春から、わたしより一足先に社会人になる。
「昔はあんなに頼りなくて小さくて可愛かったのに」
「おまえよりチビだったのは中学までだろ」
「弟ができたみたいで楽しかったのになぁ……」
「今じゃオレのが兄貴っぽいもんな」
そう言って笑った表情も、随分大人びて見えた。
(了)