きらり、きらり、
カシャンとさっきとは違う音がして顔を上げたのと同時に、目の前が一段と明るくなった。
見るとすべてのボタンが赤く点灯している。
驚いて飛び退いたすぐ隣に、若い男の人が立っていた。
「あ、すみません」
邪魔になっていたかと場所を空けると、笑顔で首を横に振る。
その左側にだけ、えくぼがあった。
「よかったら、500円玉交換しますよ。代わりにこっち、もらいますね」
と、つり銭口にそのまま残っていた500円玉を自分のお財布に入れた。
「え……いいんですか?」
「別に俺は損してませんから」
「すみません。ありがとうございます!」
ミルクティーのボタンを押すと、しっかりあたたかいボトルが落ちてきた。
それを見届けて、彼もホッとした笑顔を見せる。
「では」
と帰ろうとするので、急いであたたかいお茶のボタンを押す。
「あの!」
数歩離れた彼が振り返る。
その距離を小走りで詰めた。
「本当にありがとうございました! よかったら、どうぞ」
お茶を差し出すと、恐縮しきってざりざり後ずさられる。
「そんな! 本当に俺は何も損してないし、そこまでしてもらうわけには……」
「もう買っちゃったし、お礼の気持ちです。緑茶は嫌いでしたか?」
困ったように眉を下げてみせると、わかりやすくおろおろしてから、ようやくボトルを受け取ってくれた。
「いえ、好きです。すみません、いただきます!」
証明するようにその場で一口飲むので、私もミルクティーのキャップを開けて飲んだ。
「あー、おいしい」
素で言葉がこぼれた。
「おいしいですね」
ただのお茶なのに、彼もしみじみと言う。