きらり、きらり、
曇ったガラスの向こう側でちらちらと降る雪を、膝を抱えて眺めている。
粒子の細かい雪は風によって右へ左へ流されていた。
テレビもつけず、ファンヒーターや冷蔵庫の音さえうるさく感じるほどに耳を済ます。
ケンカをしてからも、晴太は毎日ここにやってきているはず。
それが仕事だから。
バイクの音がして、私は立ち上がって外を見た。
曇ったガラスを手で拭く間にも、人影は素早く郵便物を用意している。
いつもなら私の部屋を見上げる晴太は、頑なに下を向いたまま、エントランスに向かって歩き出した。
私がいない日でも見上げると言っていたのに。
今日が土曜日で、私が休みだって知ってるはずなのに。
世の中のケンカは、きっとほとんどが些細な理由に違いない。
そして、くだらない意地で大切なものを傷つけたり失ったりするのだ。
走ってエントランスに向かうと、晴太はまだカシャンカシャンと配達を続けていた。
私の足音には気づいたはずなのに、何かを確認しているようで郵便物を見つめたまま、振り向きもしない。
私はやっぱり声をかけられず、大きく開かれたエントランスの出入り口に立ち、降る雪を眺めるふりをしていた。
思った以上に気温が低く、タイツ一枚の脚が痛いほどに寒い。
カシャン、と最後の郵便物が落とされる音がした。
背中で晴太の戸惑うような気配を感じて、私は小さく一歩だけ、出入り口を塞ぐ位置に移動した。
狭くなった出入り口をものともせず、晴太はすり抜けて出て行く。
通りすぎざま、ピシッ! っと私のおでこをやさしく叩きながら。
バイクを回転させた晴太は、滂沱の涙を流す私を見て、いつものように笑って言った。
「あとでね!」
頬を落ちる冷たい涙は、悲しみから安堵のものへと変わった。