きらり、きらり、
「えーーーーー」
ようやく出た声も、一応車内なのでごく控えめ。
状況は理解しているつもりでも、あまりのことに頭も心も追い付いていなかった。
それでも怒りは次第に湧いてくる。
折ったこと自体は事故だったとしても、謝罪の言葉ひとつなかった。
バスを降りられてしまえば、もうヤツは見つからない。
もしかしたら、同じバスに乗り合わせるかもしれないけれど、普通の普通の特徴のないおじさんだったから、もう顔も覚えてない。
確かに安いビニール傘だけど、ドットの大きさや色が気に入ってたし、何より外は雨なのにもうこの傘は使えない。
あのおじさんは、自分の傘を差していたのに!
私の降りる停留所に着いた。
ふたり降りたのを見て、ようやく席を立つ。
「すみません。この傘、さっき車内で折られてしまって」
「……は、はい?」
不機嫌に話し掛けられた運転手さんも不幸だったけど、このまま惨めに傘を持ち歩きたくなかった。
「これ、処分してもらうわけにいきませんか?」
「それは、構いませんけど……大丈夫ですか?」
フロントガラスを打つ雨を運転手さんは視線で示す。
大丈夫なわけないでしょ!!という胸中の悪態を、心優しい運転手さんにぶつけるわけにはいかない。
顔を取り繕う余裕はなかったものの、社会人として最低限の常識で頭を下げた。
「大丈夫です。すみませんが、お願いします」
ようやく出た声も、一応車内なのでごく控えめ。
状況は理解しているつもりでも、あまりのことに頭も心も追い付いていなかった。
それでも怒りは次第に湧いてくる。
折ったこと自体は事故だったとしても、謝罪の言葉ひとつなかった。
バスを降りられてしまえば、もうヤツは見つからない。
もしかしたら、同じバスに乗り合わせるかもしれないけれど、普通の普通の特徴のないおじさんだったから、もう顔も覚えてない。
確かに安いビニール傘だけど、ドットの大きさや色が気に入ってたし、何より外は雨なのにもうこの傘は使えない。
あのおじさんは、自分の傘を差していたのに!
私の降りる停留所に着いた。
ふたり降りたのを見て、ようやく席を立つ。
「すみません。この傘、さっき車内で折られてしまって」
「……は、はい?」
不機嫌に話し掛けられた運転手さんも不幸だったけど、このまま惨めに傘を持ち歩きたくなかった。
「これ、処分してもらうわけにいきませんか?」
「それは、構いませんけど……大丈夫ですか?」
フロントガラスを打つ雨を運転手さんは視線で示す。
大丈夫なわけないでしょ!!という胸中の悪態を、心優しい運転手さんにぶつけるわけにはいかない。
顔を取り繕う余裕はなかったものの、社会人として最低限の常識で頭を下げた。
「大丈夫です。すみませんが、お願いします」