きらり、きらり、
「中道さん、 こっちもどうぞ」
立石さんの奥さんが、ポテトチップスを勧めてくれた。
「すみません。ありがとうございます。でもお腹いっぱいで」
「わあ、いいなー。私なんてつわりおさまったら止まらない」
言葉通りポテトチップスを頬張る夫人を、立石さんが「そのへんにしたら?」と、ビールを空けながら形ばかり止める。
聞き流す立石夫人のペースに引きずられて数枚食べたけれど、身体のどこに入っているのかわからないくらい落ち着かなかった。
「美夏ちゃん、大丈夫?」
里葎子さんにも心配されるほど、空ではなくいつの間にか溢れる人ばかりを見ていた。
「大丈夫ですよ。ちょっと久しぶりの人混みにびっくりしちゃって」
「疲れたなら帰る? タクシーまで送るけど」
里葎子さんの旦那さまが腰を浮かせるので、慌てて立ち上がってそれを制した。
「本当に大丈夫です! あ、カフェインレスのお茶が足りませんね。私、買い足して来ます」
ドーン! ドーン! という花火の音を背に人の間をすり抜けていく。
もうあと30分もすれば終わるので、少し早めに帰る人の流れがすでにできつつあった。
たくさんの人がひしめき合う中を早歩きしながら、たったひとりの姿を探す。
けれど、仕事の制服で来るわけもないし、ほとんどシルエットの中から探し出せる気がしなかった。
わずかな希望にすがったけれど、「約束はできません」とも確かに言われたのだ。
どこかで見て、もう帰ってしまったかもしれない。
そもそも来ていないかもしれない。
……別の誰かと見ているかもしれない。
早歩きだった足が、とぼとぼとスピードを落とした。
混み合うコンビニに入る元気もなく、少し離れた自動販売機に向かう。
両親と小学生くらいの男の子ふたりの家族が、それぞれの飲み物を買っている間、その場からぼんやり空を見上げた。
人の熱気の届かないそこは、風がよく抜け、まとめ髪で晒された首筋をぬるい風がかすめて去っていく。
花火が上がる。
音は立派だし、風に乗って火薬の匂いもするけれど、通りの脇に植えられたプラタナスに遮られて花火は欠けて見えた。
どうりでここには人が少ない。