好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
秘書ではありません
『莉歩ってさ。母親みたいだな』

高校生の時、初めて付き合った男子に言われた。彼は中学校が一緒でそれなりによく話す男子だった。気兼ねすることもなく、何でも話せるタイプ。
一緒に長い時間を過ごすことに違和感もなく、付き合おう、と言われ素直に頷いた。彼のことは嫌いではなかったし、明るく裏表のない性格に惹かれた。
だけど彼には“恋”ではなかった。私には恐らく“恋”だったはずなのに。

元来世話焼きで、ひとりで何とかしてしまうクセがある私には可愛く甘える、なんてことは出来なかった。弟がいるせいかもしれない。甘える、ということが苦手だった。甘え方もわからなかった。率先して誰かの世話を焼きたい訳じゃない、ただ気になってしまう。見返りを求める訳ではなく、こうしたらいいのに、と思うとすぐ行動してしまう。彼は私を“彼女”から“母親”に見てしまい、私の幼い恋は一方的に終わりを迎えた。数ヶ月後、彼の隣には色白で小さな可愛い少女が指を絡ませて歩いていた。

その後、札幌市内の大学に進学した私はゼミが一緒だった男子と二年程付き合った。彼は真面目で優しい人だった。だけど、言われた言葉は高校生の時に付き合った彼とほぼ同じだった。
『ひとりで何でもできるんだね』
『もっと頼ってほしかった』
『莉歩に俺は必要?』
『俺が莉歩を甘やかしたかったのに』
彼との恋が終わりを迎えた時、私は恋のスイッチをパチンと切ってしまった。
< 1 / 163 >

この作品をシェア

pagetop