好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「何でいつもそんな表情すんの?」
バサッと乱雑に桔梗さんが自身のコートを椅子にかけた。黒いコートが俯く私の視界をかすめる。
「……彼氏の家に来ることがそんなに、嫌?」
低く呟くように言われた言葉にハッとして顔を上げた。
カツサンドを抱えて立ち尽くす私の前に、コートをかけた椅子の背を握りしめて佇む桔梗さんの横顔があった。端正な顔立ちが苦しそうに歪んでいる。ゆっくりと桔梗さんのチョコレート色の瞳が私に向けられた。
そこに浮かぶのは怒りでも諦めでもなく……悲しみの色。
「お前は俺の気持ちが迷惑なの?」
薄い形のいい唇から紡がれた言葉が真っ直ぐに突き刺さった。どこか、頼りなげな声が静かな部屋に響く。
ギュッと無意識に手の中にある袋を握りしめた。ぐしゃり、と乾いた嫌な音がした。
ドクドクドク、と鼓動が速いリズムを刻む。身体に鋭い緊張が走る。腕を伸ばせば触れられるはずの距離なのに、指一本さえ動かすのが恐い。桔梗さんの射るような視線から逃れることができない。
「俺が信じられない? 何で本心を見せないの?」
弱々しい声音なのに諦めを含んで放たれた言葉に、喉がヒュッと鳴った。瞬きすら躊躇って桔梗さんを見つめた。
その先に見えるものは、思い出したくもない過去の自分の恋の終わり。今の自分と、過去の彼氏と桔梗さんを重ねている訳じゃない。
だって抱く気持ちが全然違う。こんなにもこんなにも胸が張り裂けそうに痛い。桔梗さんを見つめる時はいつも平常心ではいられない。
どうしてそんな表情をするの、どうしてそんな諦めたように話すの。
バサッと乱雑に桔梗さんが自身のコートを椅子にかけた。黒いコートが俯く私の視界をかすめる。
「……彼氏の家に来ることがそんなに、嫌?」
低く呟くように言われた言葉にハッとして顔を上げた。
カツサンドを抱えて立ち尽くす私の前に、コートをかけた椅子の背を握りしめて佇む桔梗さんの横顔があった。端正な顔立ちが苦しそうに歪んでいる。ゆっくりと桔梗さんのチョコレート色の瞳が私に向けられた。
そこに浮かぶのは怒りでも諦めでもなく……悲しみの色。
「お前は俺の気持ちが迷惑なの?」
薄い形のいい唇から紡がれた言葉が真っ直ぐに突き刺さった。どこか、頼りなげな声が静かな部屋に響く。
ギュッと無意識に手の中にある袋を握りしめた。ぐしゃり、と乾いた嫌な音がした。
ドクドクドク、と鼓動が速いリズムを刻む。身体に鋭い緊張が走る。腕を伸ばせば触れられるはずの距離なのに、指一本さえ動かすのが恐い。桔梗さんの射るような視線から逃れることができない。
「俺が信じられない? 何で本心を見せないの?」
弱々しい声音なのに諦めを含んで放たれた言葉に、喉がヒュッと鳴った。瞬きすら躊躇って桔梗さんを見つめた。
その先に見えるものは、思い出したくもない過去の自分の恋の終わり。今の自分と、過去の彼氏と桔梗さんを重ねている訳じゃない。
だって抱く気持ちが全然違う。こんなにもこんなにも胸が張り裂けそうに痛い。桔梗さんを見つめる時はいつも平常心ではいられない。
どうしてそんな表情をするの、どうしてそんな諦めたように話すの。