好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
ギュッと目を瞑って拒絶の言葉を待つ私の震える手に、触れる温かな感触。
「え?」
目を開けると私の両手を包む桔梗さんの綺麗な手があった。狼狽える私をよそに、桔梗さんは私の両手を自身の顔まで持ち上げて口付けた。
「き、桔梗さん!?」
慌てて引き抜こうとした手をガッチリと握り込まれる。
「お前、何言ってんの……」
呟くように落とされた言葉は切なく響く。
「俺がどれだけお前を好きだと思ってる! 別れるって何? 俺がお前を手離すわけないだろ! 何でそんな馬鹿なこと言うんだよ!」
桔梗さんの長い指が震えていた。悲痛ともとれる叫び声が私の胸に刺さった。秀麗な顔立ちが苦しそうに歪む。私の指に口付けながらも桔梗さんは話す。
「お前が何も言わないから。いつも辛そうな顔ばっかりするから。俺といたくないのかって、やっぱり無理して俺とつきあってるのか、ほかに好きな奴ができたのかって……」
「そ、そんなわけない! 桔梗さん以外に好きな人なんていない。き、桔梗さんが好きなの! わ、私は桔梗さんの期間限定の彼女だから!」
全力で否定する私。
「何それ?」
一気に低くなる桔梗さんの声。綺麗な焦げ茶色の瞳を妖しく眇めて、桔梗さんは私の腰をガッチリ抱きしめた。
「莉歩。ちゃんと説明しろ」
あまりに自然に呼ばれた名前。
『莉歩』
たった一言。ほんの一瞬。胸が震えて、涙が再び溢れ出す。
呼んで欲しかった名前。呼ばれなかった名前。
まさか、今、こんなに自然に叶うなんて思わなかった。こんな状況なのに、好きな人に名前を呼ばれることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
「……莉歩?」
桔梗さんが不思議そうに、私の涙で濡れた頰を手でなぞる。
「名前……」
唇が震える。
「名前?」
桔梗さんが問い返す。
「呼んでもらえると思わなかった……」
泣き笑いのような顔をして話す私に、桔梗さんの頰がブワッと赤く染まった。
「お前っ! 何で、今!」
「桔梗さん?」
様子が一変した桔梗さんにおずおず呼びかける。
「え?」
目を開けると私の両手を包む桔梗さんの綺麗な手があった。狼狽える私をよそに、桔梗さんは私の両手を自身の顔まで持ち上げて口付けた。
「き、桔梗さん!?」
慌てて引き抜こうとした手をガッチリと握り込まれる。
「お前、何言ってんの……」
呟くように落とされた言葉は切なく響く。
「俺がどれだけお前を好きだと思ってる! 別れるって何? 俺がお前を手離すわけないだろ! 何でそんな馬鹿なこと言うんだよ!」
桔梗さんの長い指が震えていた。悲痛ともとれる叫び声が私の胸に刺さった。秀麗な顔立ちが苦しそうに歪む。私の指に口付けながらも桔梗さんは話す。
「お前が何も言わないから。いつも辛そうな顔ばっかりするから。俺といたくないのかって、やっぱり無理して俺とつきあってるのか、ほかに好きな奴ができたのかって……」
「そ、そんなわけない! 桔梗さん以外に好きな人なんていない。き、桔梗さんが好きなの! わ、私は桔梗さんの期間限定の彼女だから!」
全力で否定する私。
「何それ?」
一気に低くなる桔梗さんの声。綺麗な焦げ茶色の瞳を妖しく眇めて、桔梗さんは私の腰をガッチリ抱きしめた。
「莉歩。ちゃんと説明しろ」
あまりに自然に呼ばれた名前。
『莉歩』
たった一言。ほんの一瞬。胸が震えて、涙が再び溢れ出す。
呼んで欲しかった名前。呼ばれなかった名前。
まさか、今、こんなに自然に叶うなんて思わなかった。こんな状況なのに、好きな人に名前を呼ばれることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
「……莉歩?」
桔梗さんが不思議そうに、私の涙で濡れた頰を手でなぞる。
「名前……」
唇が震える。
「名前?」
桔梗さんが問い返す。
「呼んでもらえると思わなかった……」
泣き笑いのような顔をして話す私に、桔梗さんの頰がブワッと赤く染まった。
「お前っ! 何で、今!」
「桔梗さん?」
様子が一変した桔梗さんにおずおず呼びかける。