好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
四月も半ばになり、雪の姿が少しずつ街並みから消えていく。日中に降ることもほぼなくなり、遅い桜の季節がやって来た。
春の人事で皆川さんが東京本部に異動になった。後任の河田さんも皆川さんのように温和な男性で少しほっとした。プロジェクトの新制度も順調に進み、稼働時期も前倒しにしようかという案さえ出てきていた。
尚樹さんは相変わらず忙しい。加えて最近では峰岸さんもとても忙しそうにしていた。尚樹さんは以前から出張が多いけれど、峰岸さんもよく出張をするようになっていた。尚樹さんと峰岸さんのどちらかが不在の日が増えていた。
「藤井さん」
三日ぶりに会う峰岸さんが私を呼んだ。パソコンから顔を上げて向かい側の席に座る峰岸さんを見た。連日の激務をもろともせず、肌荒れひとつない峰岸さんは本当に綺麗で、同じ女性として憧れる。
立ち上がって用件を聞きに行こうとする私に、峰岸さんは笑って手を振った。
「そんな堅苦しくしてくれなくていいわ、息抜きにお茶しに行きましょ」
午後六時半。
閉店時間も勤務時間も過ぎている。現在は残業中だ。ちなみに尚樹さんはまだ取引先から戻っていない。
お茶とは言っても自動販売機にコーヒーを買いに行くだけなのだけど、私も笑って快諾した。
「あなたのストーカー上司が戻ってくる前に話したいこともあるし」
立ち上がって峰岸さんが意味深に口角を上げて言う。
春の人事で皆川さんが東京本部に異動になった。後任の河田さんも皆川さんのように温和な男性で少しほっとした。プロジェクトの新制度も順調に進み、稼働時期も前倒しにしようかという案さえ出てきていた。
尚樹さんは相変わらず忙しい。加えて最近では峰岸さんもとても忙しそうにしていた。尚樹さんは以前から出張が多いけれど、峰岸さんもよく出張をするようになっていた。尚樹さんと峰岸さんのどちらかが不在の日が増えていた。
「藤井さん」
三日ぶりに会う峰岸さんが私を呼んだ。パソコンから顔を上げて向かい側の席に座る峰岸さんを見た。連日の激務をもろともせず、肌荒れひとつない峰岸さんは本当に綺麗で、同じ女性として憧れる。
立ち上がって用件を聞きに行こうとする私に、峰岸さんは笑って手を振った。
「そんな堅苦しくしてくれなくていいわ、息抜きにお茶しに行きましょ」
午後六時半。
閉店時間も勤務時間も過ぎている。現在は残業中だ。ちなみに尚樹さんはまだ取引先から戻っていない。
お茶とは言っても自動販売機にコーヒーを買いに行くだけなのだけど、私も笑って快諾した。
「あなたのストーカー上司が戻ってくる前に話したいこともあるし」
立ち上がって峰岸さんが意味深に口角を上げて言う。