好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
ガコンッ。
小気味良い音が営業フロア奥にある自動販売機コーナーに響く。ほんの少し照明が落とされたそこは小さな休憩所のようになっている。
「橘さんと話したことを思い出すわね」
腰を屈めて缶コーヒーを取り出しながら峰岸さんが唐突に言った。
「皆で残業した時ですね。あの時とはフロアの配置も変わっちゃいましたけど、何だか懐かしいですね」
私は温かくて甘いものが飲みたくなってミルクティーを見つめていると、ピンクベージュのネイルが煌めく指がボタンを押す。
「はい、あげる」
差し出されたのは私が見つめていたミルクティー。
「峰岸さん、すみません! お支払します!」
焦って財布を開く。
「いいわよ、それくらい。誘ったの私だから」
やんわりと拒絶する峰岸さん。
「ありがとうございます……」
缶に口をつけると甘い味がほわ、と広がった。
「まさか桔梗くんにもそんなに遠慮してるの?」
峰岸さんの冷静な一言に思いっきり噎せた。
「なっ、ななっ……!」
真っ赤になってゲホゲホと咳をする私を見て、峰岸さんは楽しそうに微笑む。
「桔梗くんは藤井さんには弱いからね。あなたを見てる時の桔梗くん、すごく優しい目をしてるからすぐわかるわ。ああ、安心して。別に誰にも言わないし、転勤させたりもしないから」
鋭い洞察力に私は口をぱくぱくさせた。
「あの、ええっと、ありがとうございます……」
「何でお礼なのよ」と峰岸さんは苦笑する。
「呼び出したのはその話じゃないの。からかいたかったのは本音だけど。桔梗くんがいない場所で話したいことがあったの」
「え?」
先程までの雰囲気を一転させて峰岸さんは真剣な表情で私を見つめた。
「ねえ、藤井さん。気づいているかもしれないけれど、桔梗くんは半年以内に転勤になるわよ」
淡々と告げられたその言葉の意味をすぐには理解できなかった。
小気味良い音が営業フロア奥にある自動販売機コーナーに響く。ほんの少し照明が落とされたそこは小さな休憩所のようになっている。
「橘さんと話したことを思い出すわね」
腰を屈めて缶コーヒーを取り出しながら峰岸さんが唐突に言った。
「皆で残業した時ですね。あの時とはフロアの配置も変わっちゃいましたけど、何だか懐かしいですね」
私は温かくて甘いものが飲みたくなってミルクティーを見つめていると、ピンクベージュのネイルが煌めく指がボタンを押す。
「はい、あげる」
差し出されたのは私が見つめていたミルクティー。
「峰岸さん、すみません! お支払します!」
焦って財布を開く。
「いいわよ、それくらい。誘ったの私だから」
やんわりと拒絶する峰岸さん。
「ありがとうございます……」
缶に口をつけると甘い味がほわ、と広がった。
「まさか桔梗くんにもそんなに遠慮してるの?」
峰岸さんの冷静な一言に思いっきり噎せた。
「なっ、ななっ……!」
真っ赤になってゲホゲホと咳をする私を見て、峰岸さんは楽しそうに微笑む。
「桔梗くんは藤井さんには弱いからね。あなたを見てる時の桔梗くん、すごく優しい目をしてるからすぐわかるわ。ああ、安心して。別に誰にも言わないし、転勤させたりもしないから」
鋭い洞察力に私は口をぱくぱくさせた。
「あの、ええっと、ありがとうございます……」
「何でお礼なのよ」と峰岸さんは苦笑する。
「呼び出したのはその話じゃないの。からかいたかったのは本音だけど。桔梗くんがいない場所で話したいことがあったの」
「え?」
先程までの雰囲気を一転させて峰岸さんは真剣な表情で私を見つめた。
「ねえ、藤井さん。気づいているかもしれないけれど、桔梗くんは半年以内に転勤になるわよ」
淡々と告げられたその言葉の意味をすぐには理解できなかった。