好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「何度も言うけど、私はあなたを苛めたいわけじゃないのよ?」
「わかってます……」
俯きながら弱々しく返事をする私は、部下としてのマナー失格だ。だけど、ズキズキ痛みだす胸を無視することが出来ない。
峰岸さんはどうして今、そんな話をするのだろう。離れる覚悟をしなさい、ということなのだろうか。もしくは離れても付き合えるほど強くなりなさいということなのだろうか。
「藤井さん、総合職に変わらない?」
峰岸さんからの答えは予想もしないものだった。
「……え?」
ぽかんと顔を上げて返事をした私に、峰岸さんは苦笑しながらもう一度繰り返す。
「総合職になるの、藤井さんが」
峰岸さんがゆっくり、はっきりと言う。
「ええっ!」
言われた意味をやっと理解した私の大声に、峰岸さんが慌てて唇に細い人差し指を立てた。
「ちょっと! 声が大きい!」
「す、すみません! でもっ、そんなこと……!」
慌てて自分の口を抑える私。
「桔梗くんは札幌支店を出ていったら二度と戻らない。桔梗くんの傍にいるためには、あなたが総合職になるのが一番でしょ? もしくは半年以内に結婚するか」
淡々と話す峰岸さんの突飛な言葉に返事が出来ない。
「あなたは仕事ができる人よ。事務職としての経験も充分にあるし、営業担当や役職者の補佐もきちんとできる。取引先にも気に入られてるし、対人折衝に問題はない。充分やっていけるわ」
ニコッと同性の私でさえ見惚れてしまいそうな艶やかな微笑みを峰岸さんは浮かべる。
「言っとくけど上司の贔屓目じゃないわよ? 私、そういう誰のためにもならないことするの大嫌いだから」
私の心を読んだかのように峰岸さんが付け足す。
「わかってます……」
俯きながら弱々しく返事をする私は、部下としてのマナー失格だ。だけど、ズキズキ痛みだす胸を無視することが出来ない。
峰岸さんはどうして今、そんな話をするのだろう。離れる覚悟をしなさい、ということなのだろうか。もしくは離れても付き合えるほど強くなりなさいということなのだろうか。
「藤井さん、総合職に変わらない?」
峰岸さんからの答えは予想もしないものだった。
「……え?」
ぽかんと顔を上げて返事をした私に、峰岸さんは苦笑しながらもう一度繰り返す。
「総合職になるの、藤井さんが」
峰岸さんがゆっくり、はっきりと言う。
「ええっ!」
言われた意味をやっと理解した私の大声に、峰岸さんが慌てて唇に細い人差し指を立てた。
「ちょっと! 声が大きい!」
「す、すみません! でもっ、そんなこと……!」
慌てて自分の口を抑える私。
「桔梗くんは札幌支店を出ていったら二度と戻らない。桔梗くんの傍にいるためには、あなたが総合職になるのが一番でしょ? もしくは半年以内に結婚するか」
淡々と話す峰岸さんの突飛な言葉に返事が出来ない。
「あなたは仕事ができる人よ。事務職としての経験も充分にあるし、営業担当や役職者の補佐もきちんとできる。取引先にも気に入られてるし、対人折衝に問題はない。充分やっていけるわ」
ニコッと同性の私でさえ見惚れてしまいそうな艶やかな微笑みを峰岸さんは浮かべる。
「言っとくけど上司の贔屓目じゃないわよ? 私、そういう誰のためにもならないことするの大嫌いだから」
私の心を読んだかのように峰岸さんが付け足す。