好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「あなたの仕事に対する姿勢が私は好きよ。桔梗くんの話は二の次にしても、あなた自身違うキャリアを目指してみたらどうかしら?」
私よりも私を理解しているような口調の峰岸さんに戸惑う。突然過ぎてついていかない思考の中で、唯一冷静に受けとれた言葉は違うキャリア、ということ。
仕事は嫌いじゃない。むしろ好きなほうだ。お客様と話をしている時の小さな緊張感に背筋が伸びる。お客様が何を望まれているのか悩むことは多々だけど、渋面だった表情がほどけていく瞬間に感じる気持ちは何とも言い難い。
「返事はすぐに、とは言わないわ。そうね、段取りがあるから一週間くらい考えてみて」
細い指で峰岸さんは缶コーヒーを持ち直して、飲み干す。そんな仕草さえ、様になっている。
「……はい」
俯いて返事をする。頭の中は既にいっぱいいっぱいだ。
「返事は桔梗くんに伝えてくれても構わないわよ? ちなみに今回の話は桔梗くんは知らないから。完全に私の独断よ」
そんな気はしていたけれど、理由を峰岸さんに尋ねてみた。
「桔梗くんに頼まれたから、とか。同期の恋を応援したいから、とか不埒な理由であなたを推薦したと思われたくないのよ。私は私の判断であなたを推薦したいの」
清清しいほどの正当さで峰岸さんは言い切る。その言葉に私の胸がじんわりと熱くなる。
「以前にね、言われたことがあるの。上司の大きな仕事は、部下を育てることだって。当時は意味がよくわからなかったけれど今ならわかるわ」
峰岸さんは懐かしそうに顔をほころばせる。柔らかい表情を浮かべる峰岸さんは、まるで少女のよう。
そんな真剣な思いで私を推薦してくれていることが嬉しかった。
その気持ちに応えたい、単純に思った。
私よりも私を理解しているような口調の峰岸さんに戸惑う。突然過ぎてついていかない思考の中で、唯一冷静に受けとれた言葉は違うキャリア、ということ。
仕事は嫌いじゃない。むしろ好きなほうだ。お客様と話をしている時の小さな緊張感に背筋が伸びる。お客様が何を望まれているのか悩むことは多々だけど、渋面だった表情がほどけていく瞬間に感じる気持ちは何とも言い難い。
「返事はすぐに、とは言わないわ。そうね、段取りがあるから一週間くらい考えてみて」
細い指で峰岸さんは缶コーヒーを持ち直して、飲み干す。そんな仕草さえ、様になっている。
「……はい」
俯いて返事をする。頭の中は既にいっぱいいっぱいだ。
「返事は桔梗くんに伝えてくれても構わないわよ? ちなみに今回の話は桔梗くんは知らないから。完全に私の独断よ」
そんな気はしていたけれど、理由を峰岸さんに尋ねてみた。
「桔梗くんに頼まれたから、とか。同期の恋を応援したいから、とか不埒な理由であなたを推薦したと思われたくないのよ。私は私の判断であなたを推薦したいの」
清清しいほどの正当さで峰岸さんは言い切る。その言葉に私の胸がじんわりと熱くなる。
「以前にね、言われたことがあるの。上司の大きな仕事は、部下を育てることだって。当時は意味がよくわからなかったけれど今ならわかるわ」
峰岸さんは懐かしそうに顔をほころばせる。柔らかい表情を浮かべる峰岸さんは、まるで少女のよう。
そんな真剣な思いで私を推薦してくれていることが嬉しかった。
その気持ちに応えたい、単純に思った。