好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「あなたは素直なのね。考えていることが顔に出るってよく言われない?」
「えっ?」
峰岸さんは可笑しそうに両手で頰を押さえる私を見る。
何だか恥ずかしい。いや、それよりも今はこの話を考えなくては。だけど、本当に私に務まるのだろうか。
出張ですら道内を少ししか経験したことがない。生まれてこの方、旅行以外で本州を訪れたこともない私が本州で暮らしながら仕事をこなせる? 
札幌支店の何倍もの規模の仕事や人と関わって上手くやっていけるのだろうか。何よりも、尚樹さんに反対されないだろうか。
私が尚樹さんと同じ職種を選んでしまうことを嫌がられたらどうしよう。
追いかけるみたいな真似をしてほしくなかったらどうしよう。
尚樹さんほど有能に仕事をこなせる自信はない。弾んでいた気持ちが、穴が空いた風船のようにぷしゅうと萎んでいく。
尚樹さんに何て言えばいいのだろう。相談したい気持ちもあるけれど話したくない気持ちがある。話すなら試験も何もかも終わって結果が出た時にしたいと、強情な私が顔をだす。
そんな私の耳に峰岸さんの呆れたような声が聞こえた。
「桔梗くんには話さないから安心して。あなたが話したいタイミングで話せばいいわ。この話を受けるか相談するのもひとつよ」
さりげなく補足してくれる峰岸さん。
「すみません……」
上司の気遣いに項垂れる。
「お節介だと思うけれど、これだけは言っておきたいの」
声音が急にがらりと変わった峰岸さんを不思議に思って見つめた。
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