好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「上司、としてではなく、年上の女の意見として言わせてちょうだい。不快なら聞き流してくれて構わないわ」
峰岸さんらしくない前置きの後、落ちつきなく、峰岸さんはコホンと小さく咳払いをした。
「今まで桔梗くんは、あなたをずっと追いかけてきたでしょ? 彼はあなたを一番に優先してきたし、大事にしてきたわ。そのことを瀬尾くんと私はよく知っている。あなたも薄々気がついていたでしょ? 今回はあなたが追いかけてもいいんじゃない? あなたが追いかけて、不快に感じるような小さな器の同期じゃないわよ」
その言葉が私の心にスッと入り込む。
「自分の大事な人を追いかけることができる時間は限られているわ。迷うなら踏み込んだ方がいいってことは、経験してきたからよくわかるの」
「峰岸さん」
峰岸さんは完璧にマスカラを塗られた睫毛を伏せる。
言葉を紡ぎだす声が微かに揺れているように聞こえるのは気のせいだろうか。
「物事にはタイミングがあるわ。渦中にいると気がつかないけれどね。恋は特にそうよ」
ゆっくり瞬きを繰り返す峰岸さんを私はただ黙って見つめる。
誰のことを話しているか、わかる。峰岸さんの言葉には失ってしまった過去の恋への切なさが端々に滲んでいて、胸が締めつけられた。
「峰岸さんは後悔しているんですか?」
恋に疎い私が言える、精一杯の言葉はこれだけだった。
「まさか!」
意外なほど明るい、きっぱりした口調で峰岸さんは明るく笑った。
峰岸さんらしくない前置きの後、落ちつきなく、峰岸さんはコホンと小さく咳払いをした。
「今まで桔梗くんは、あなたをずっと追いかけてきたでしょ? 彼はあなたを一番に優先してきたし、大事にしてきたわ。そのことを瀬尾くんと私はよく知っている。あなたも薄々気がついていたでしょ? 今回はあなたが追いかけてもいいんじゃない? あなたが追いかけて、不快に感じるような小さな器の同期じゃないわよ」
その言葉が私の心にスッと入り込む。
「自分の大事な人を追いかけることができる時間は限られているわ。迷うなら踏み込んだ方がいいってことは、経験してきたからよくわかるの」
「峰岸さん」
峰岸さんは完璧にマスカラを塗られた睫毛を伏せる。
言葉を紡ぎだす声が微かに揺れているように聞こえるのは気のせいだろうか。
「物事にはタイミングがあるわ。渦中にいると気がつかないけれどね。恋は特にそうよ」
ゆっくり瞬きを繰り返す峰岸さんを私はただ黙って見つめる。
誰のことを話しているか、わかる。峰岸さんの言葉には失ってしまった過去の恋への切なさが端々に滲んでいて、胸が締めつけられた。
「峰岸さんは後悔しているんですか?」
恋に疎い私が言える、精一杯の言葉はこれだけだった。
「まさか!」
意外なほど明るい、きっぱりした口調で峰岸さんは明るく笑った。