好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「この道を選んだことも、彼と別れて、がむしゃらに走ってきた時間を後悔したことは一度もないわ。ただ、ふとした瞬間に思い出すの。あの時、あの瞬間、自分の気持ちから私は逃げていなかったかって」
「逃げる?」
不思議な言葉に思わず聞き返す。
「そう。自分の本心を素直に伝えていたかなって、橘さんやあなたを見ていると思い出すの。言っておくけど彼に未練は全くないわよ。彼には橘さんがお似合いだと思うし、幸せになってもらいたいと心から願ってるわ」
悟ったように話す峰岸さんはどこか寂しそうに見えた。
「手を伸ばせば、お互いがほんの少し思いやれたなら、上手く行くタイミングがあったとしたら、私はそれを掴み損ねたの。あなたにはそうなってほしくない。あなたは器用なように見えて私に似ているところがあるから」
ほんの少し心配そうな目を私に向ける峰岸さん。
「私がですか? 峰岸さんは私から見たら完璧な女性ですよ?」
驚く私。
「まさか! やめてよ、そんなわけないじゃない」
ふふっとオレンジベージュの口紅が塗られた唇を上げて微笑む峰岸さんはとても色っぽい。
対する私は、この時間は化粧もくずれてしまっているし、手も荒れている。私の倍近く忙しい、峰岸さんの完璧な女子力に私はほど遠い。
ほんの少し赤くなった頰を隠すように話す峰岸さんはいつもの近寄りがたい雰囲気が半減していて、とても可愛らしい。その優しさが嬉しかった。
「ありがとうございます。よく考えてみます」
心からの思いを伝える。
「そうね。あなたは優しいから変に相手の気持ちを考えすぎて退いてしまうから。たまには我儘に貪欲に欲しいものを掴みにいきなさい」
そう言った峰岸さんは見惚れるほどに綺麗だった。
「逃げる?」
不思議な言葉に思わず聞き返す。
「そう。自分の本心を素直に伝えていたかなって、橘さんやあなたを見ていると思い出すの。言っておくけど彼に未練は全くないわよ。彼には橘さんがお似合いだと思うし、幸せになってもらいたいと心から願ってるわ」
悟ったように話す峰岸さんはどこか寂しそうに見えた。
「手を伸ばせば、お互いがほんの少し思いやれたなら、上手く行くタイミングがあったとしたら、私はそれを掴み損ねたの。あなたにはそうなってほしくない。あなたは器用なように見えて私に似ているところがあるから」
ほんの少し心配そうな目を私に向ける峰岸さん。
「私がですか? 峰岸さんは私から見たら完璧な女性ですよ?」
驚く私。
「まさか! やめてよ、そんなわけないじゃない」
ふふっとオレンジベージュの口紅が塗られた唇を上げて微笑む峰岸さんはとても色っぽい。
対する私は、この時間は化粧もくずれてしまっているし、手も荒れている。私の倍近く忙しい、峰岸さんの完璧な女子力に私はほど遠い。
ほんの少し赤くなった頰を隠すように話す峰岸さんはいつもの近寄りがたい雰囲気が半減していて、とても可愛らしい。その優しさが嬉しかった。
「ありがとうございます。よく考えてみます」
心からの思いを伝える。
「そうね。あなたは優しいから変に相手の気持ちを考えすぎて退いてしまうから。たまには我儘に貪欲に欲しいものを掴みにいきなさい」
そう言った峰岸さんは見惚れるほどに綺麗だった。