好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
峰岸さんに職種変更の話を聞いてから、三日経った。
尚樹さんには話していない。隠し事をするつもりは全くないけれど、この話だけはひとりで決めたかった。ひとりで決めなければいけない気がした。
尚樹さんは峰岸さんが言うように私を大切に大事にしてくれている。
初めて彼の部下になった時からそれは感じていた。難しい仕事も基本的には私に任せてくれる。「好きにやってみろ」と言う。だからといって押し付けたり放置するわけではなく、要所、要所できちんと経過を確認してくる。悩んでいたり考え込んでいたら、話を聞いてくれる。それは私だけではなく、ほかの部下に対してもそうだった。
ふざけているように見えて仕事に対しては誰よりも真摯に向き合う人。そんな人だから、そんな上司だからこそ、尚樹さんを悩ませてしまうのではないかと思う。
自分のせいで私が職種変更をしたと思ってほしくはない。かといって、今のままで離れたくはない。
正直、遠距離恋愛ができる自信は全くない。普通の恋愛すら上手にできない私が遠距離恋愛だなんて難しいことをできるわけがない。
尚樹さんのことだ。意地っぱりで自分の気持ちを表現することが下手な私の気持ちなんてお見通しだ。自分のキャリアを犠牲にしても一緒にいられる道を模索してくれるかもしれない。
それはきっととても幸せなことなんだろう。
だけどそんな犠牲を尚樹さんにはらってほしくはない。彼の荷物になりたくない。
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