好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
『藤井、桔梗は?』
『……瀬尾さんまで何ですか。私は桔梗さんの秘書ではありません』
溜め息混じりに秀麗な顔立ちを見返すと、苦笑する瀬尾さんがいた。
もうすぐ七月。日が長くなり、軽装で明るい色合いの服を身に付けた人が街を行き交う。世間ではクールビズで半袖シャツ云々と言われるところだけど、札幌の夏はそれほど暑くない。本州から来た瀬尾さんや桔梗さんは夏も長袖のワイシャツを着るらしい。
『悪い、桔梗は俺からの呼び出しには出なくても藤井からの呼び出しには応じるから。……露骨に顔に出すなよ』
ふっと瀬尾さんが笑う。椅子に足を絡めて転びそうになったあの一件以来、桔梗さんのことでからかわれるとすぐ真っ赤になってしまう。とはいえ、そのことを知っているのは瀬尾さんと金子さんくらいなので、ふたりにはお約束のようになっている。
『先刻連絡がありました。こちらに七月から派遣される橘さんの書類は準備できているそうです。現在外出中で、七時半には帰社されるそうですよ』
言外にやっぱりな、と匂わせて瀬尾さんは微笑む。瀬尾さんはどこから見ても完璧な白馬の王子様だけど、実は抜け目がなく容赦がない。たまに悪魔の尻尾が揺れていると錯覚するくらい。
桔梗さんは一見、悪役貴公子だけど実はすごく優しい一面がある。滅多に見れないけれど、無邪気な顔で屈託なく笑う姿は年上の男性だと思えないくらいにあどけない。
瀬尾さんの部下で私の初めての後輩になる、七月に赴任予定の橘さんの立場を少し憂いた。
『……瀬尾さんまで何ですか。私は桔梗さんの秘書ではありません』
溜め息混じりに秀麗な顔立ちを見返すと、苦笑する瀬尾さんがいた。
もうすぐ七月。日が長くなり、軽装で明るい色合いの服を身に付けた人が街を行き交う。世間ではクールビズで半袖シャツ云々と言われるところだけど、札幌の夏はそれほど暑くない。本州から来た瀬尾さんや桔梗さんは夏も長袖のワイシャツを着るらしい。
『悪い、桔梗は俺からの呼び出しには出なくても藤井からの呼び出しには応じるから。……露骨に顔に出すなよ』
ふっと瀬尾さんが笑う。椅子に足を絡めて転びそうになったあの一件以来、桔梗さんのことでからかわれるとすぐ真っ赤になってしまう。とはいえ、そのことを知っているのは瀬尾さんと金子さんくらいなので、ふたりにはお約束のようになっている。
『先刻連絡がありました。こちらに七月から派遣される橘さんの書類は準備できているそうです。現在外出中で、七時半には帰社されるそうですよ』
言外にやっぱりな、と匂わせて瀬尾さんは微笑む。瀬尾さんはどこから見ても完璧な白馬の王子様だけど、実は抜け目がなく容赦がない。たまに悪魔の尻尾が揺れていると錯覚するくらい。
桔梗さんは一見、悪役貴公子だけど実はすごく優しい一面がある。滅多に見れないけれど、無邪気な顔で屈託なく笑う姿は年上の男性だと思えないくらいにあどけない。
瀬尾さんの部下で私の初めての後輩になる、七月に赴任予定の橘さんの立場を少し憂いた。