好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
……桔梗さんは嘘をつくつもりだと。
「瀬尾さんが転勤してしばらく経つから次は尚樹さんでしょう? そろそろ尚樹さんにそんな話があるんじゃないかなって思ったの」
本当のことをちゃんと私に教えてほしい。
そんな僅かな願いを込めて尚樹さんに言う。
お願いだから、私を守るために嘘をつかないで。そんな嘘は欲しくない。
「何、それ」
ハハッと乾いた笑いが聞こえた。
「……誰かに何か聞いた?」
微量な警戒心を明るい声に滲ませながら尚樹さんが尋ねる。
「どういうこと?」
声が震えそうになるのを必死で隠す。どこまでも上手に嘘をつこうとする彼に、一縷の願いが叶わなかったことを知る。
「ん? 莉歩がそんなことを聞いてくるのが珍しいから。誰かに人事異動の話でも聞いたのかなって」
上手な彼は手の内を見せてはくれない。
それが私をどれだけ傷付けているか、彼にはわからない。それが彼なりの優しさなのだとわかってる。誰よりも虚勢を張るのが上手な私が泣かないように、悲しまないように、彼が盾になろうとしてくれていることはわかってる。だからこれは本当は嘘じゃないってきちんとわかってる。私のためなんだって、頭の中ではちゃんと理解している。だけど、どうしても、胸の中で感情が暴れだす。
そんな風に私に真実を見せない優しさはいらない。
あなたとなら悲しみさえも受け入れて一緒に頑張りたいのに、どうしてその機会すら私から奪うの。
私はあなたに手を引かれないと歩けない小さな子どもではないの。
お願いだからあなたの本心を、現状を教えてほしい。
「瀬尾さんが転勤してしばらく経つから次は尚樹さんでしょう? そろそろ尚樹さんにそんな話があるんじゃないかなって思ったの」
本当のことをちゃんと私に教えてほしい。
そんな僅かな願いを込めて尚樹さんに言う。
お願いだから、私を守るために嘘をつかないで。そんな嘘は欲しくない。
「何、それ」
ハハッと乾いた笑いが聞こえた。
「……誰かに何か聞いた?」
微量な警戒心を明るい声に滲ませながら尚樹さんが尋ねる。
「どういうこと?」
声が震えそうになるのを必死で隠す。どこまでも上手に嘘をつこうとする彼に、一縷の願いが叶わなかったことを知る。
「ん? 莉歩がそんなことを聞いてくるのが珍しいから。誰かに人事異動の話でも聞いたのかなって」
上手な彼は手の内を見せてはくれない。
それが私をどれだけ傷付けているか、彼にはわからない。それが彼なりの優しさなのだとわかってる。誰よりも虚勢を張るのが上手な私が泣かないように、悲しまないように、彼が盾になろうとしてくれていることはわかってる。だからこれは本当は嘘じゃないってきちんとわかってる。私のためなんだって、頭の中ではちゃんと理解している。だけど、どうしても、胸の中で感情が暴れだす。
そんな風に私に真実を見せない優しさはいらない。
あなたとなら悲しみさえも受け入れて一緒に頑張りたいのに、どうしてその機会すら私から奪うの。
私はあなたに手を引かれないと歩けない小さな子どもではないの。
お願いだからあなたの本心を、現状を教えてほしい。