好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「さすが桔梗くん。一筋縄じゃいかないわね。本当に瀬尾くんにしろ桔梗くんにしろ私の同期は厄介な男子ばっかりね」
洞察力の鋭い峰岸さんが溜め息をつく。
「桔梗くんには桔梗くんなりの考えがあって、あなたを守ろうとしているんでしょうけど。そのことであなたが辛くなっていたら本末転倒だってわからないのかしら」
頰杖をつきながら峰岸さんが呆れたように言う。
「私は桔梗さんにどこまで何を話せばいいのか、桔梗さんにどこまで話してもらいたいのかがわからないんです」
小さく呟いた声は思ったよりも弱々しく響く。
情けない。
いい大人なのに、彼氏との距離感がわからないなんて。
尚樹さんは何を今、考えているのだろう。頭の中にたくさんの“どうして”は浮かぶのに、そのどれひとつ口にはできない。自信がないだけではなくて、これから先の尚樹さんと私の関係がわからない。
付き合うということが、漠然と未来につながるなんて、今まで思ったことも願ったことすらなかった。
いつも嫌われないか、どうしてこの人は私を選んだのか、上手に振る舞えているか、そればかりを気にしていたから。未来なんて見えなかった。
だけど今は、考えてしまう。半年後、一年後、三年後、その先、私は彼といられるのかと、彼は私にそれを望んでくれているのかと不安になる。だけど、そんなことを口にする勇気はなく、胸のなかで想いだけが燻る。
「藤井さんは私が思う以上に不器用ね。昔の私みたい」
ぽつりと峰岸さんが呟く。
「え?」
峰岸さんが小さく笑う。
「私は恋愛相談は専門外だけど、話してくれない、の前に相手に自分の心をどれだけ晒けだしているかを考えるべきね」
峰岸さんの言葉が重たく胸に落ちた。言われた意味はわかるし、十分に思い当たる。なのに、それを避けようとしている自分がいる。
洞察力の鋭い峰岸さんが溜め息をつく。
「桔梗くんには桔梗くんなりの考えがあって、あなたを守ろうとしているんでしょうけど。そのことであなたが辛くなっていたら本末転倒だってわからないのかしら」
頰杖をつきながら峰岸さんが呆れたように言う。
「私は桔梗さんにどこまで何を話せばいいのか、桔梗さんにどこまで話してもらいたいのかがわからないんです」
小さく呟いた声は思ったよりも弱々しく響く。
情けない。
いい大人なのに、彼氏との距離感がわからないなんて。
尚樹さんは何を今、考えているのだろう。頭の中にたくさんの“どうして”は浮かぶのに、そのどれひとつ口にはできない。自信がないだけではなくて、これから先の尚樹さんと私の関係がわからない。
付き合うということが、漠然と未来につながるなんて、今まで思ったことも願ったことすらなかった。
いつも嫌われないか、どうしてこの人は私を選んだのか、上手に振る舞えているか、そればかりを気にしていたから。未来なんて見えなかった。
だけど今は、考えてしまう。半年後、一年後、三年後、その先、私は彼といられるのかと、彼は私にそれを望んでくれているのかと不安になる。だけど、そんなことを口にする勇気はなく、胸のなかで想いだけが燻る。
「藤井さんは私が思う以上に不器用ね。昔の私みたい」
ぽつりと峰岸さんが呟く。
「え?」
峰岸さんが小さく笑う。
「私は恋愛相談は専門外だけど、話してくれない、の前に相手に自分の心をどれだけ晒けだしているかを考えるべきね」
峰岸さんの言葉が重たく胸に落ちた。言われた意味はわかるし、十分に思い当たる。なのに、それを避けようとしている自分がいる。