好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
橘さんへの仕事の振り分け、その後の事務手続きの説明書等を作成し、融資事務の残務を片付けていたらあっという間に七時半を過ぎていた。
『藤井、桔梗を待たずに帰れよ』
皆川さんに言われて、桔梗さんの席を見た。今日は長い時間、姿を見ていない。きりが良いところでパソコンをシャットダウンして、お疲れ様です、とフロアのほかの人々に挨拶をしてロッカールームに向かう。
ビルの外に出ると少しだけひやりとした空気が五分袖のカットソーからのぞく肌に触れた。
七時半には帰社するって言っていたのに……何かあったのかな。
無意識に桔梗さんのことを考えてしまった。今日の業務は終了したのだから、もう考える必要もないのに。カツン、と下ろし立ての白いサンダルのヒールを鳴らして大通駅に向かって歩き出す。
『……だ……ですか?』
風に揺れてどこからか途切れた話し声が聞こえてきた。声のした方を見た、私の視線が凍りつく。ビルとビルの間の細い路地で向かい合う一組の男女。小柄で、栗色の顎の下まで真っ直ぐな髪の女性と向かい合う男性は桔梗さんだった。彼らの手前にある街灯のせいで、ふたりの表情がはっきりと見えてしまう。
『好き、なんです。付き合ってください』
涙混じりに告白する女性に、桔梗さんは緩やかに口角を上げて微笑む。一瞬見惚れてしまうほどの妖艶さで。
『藤井、桔梗を待たずに帰れよ』
皆川さんに言われて、桔梗さんの席を見た。今日は長い時間、姿を見ていない。きりが良いところでパソコンをシャットダウンして、お疲れ様です、とフロアのほかの人々に挨拶をしてロッカールームに向かう。
ビルの外に出ると少しだけひやりとした空気が五分袖のカットソーからのぞく肌に触れた。
七時半には帰社するって言っていたのに……何かあったのかな。
無意識に桔梗さんのことを考えてしまった。今日の業務は終了したのだから、もう考える必要もないのに。カツン、と下ろし立ての白いサンダルのヒールを鳴らして大通駅に向かって歩き出す。
『……だ……ですか?』
風に揺れてどこからか途切れた話し声が聞こえてきた。声のした方を見た、私の視線が凍りつく。ビルとビルの間の細い路地で向かい合う一組の男女。小柄で、栗色の顎の下まで真っ直ぐな髪の女性と向かい合う男性は桔梗さんだった。彼らの手前にある街灯のせいで、ふたりの表情がはっきりと見えてしまう。
『好き、なんです。付き合ってください』
涙混じりに告白する女性に、桔梗さんは緩やかに口角を上げて微笑む。一瞬見惚れてしまうほどの妖艶さで。