好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「なあ、藤井。何で急に東京で研修? 俺、日程も何も聞いてなかったんだけど。いつの通達で出てた?」
私の研修について尚樹さんは、出発前日の今も不思議そうに尋ねてくる。しっかりと私の向かいの空席に腰かけて。
「ええと、いつだったかは覚えてないですけど……」
内心冷や汗をかきながら平静を装って返事をする。
「峰岸は七年目研修だって言うんだけどさぁ、何でこんな夏場にするんだ? それって春じゃなかったか?」
ぱらぱらと研修の日程表を長い指でめくりながら、納得がいかない様子で話す尚樹さん。
「……そうですか」
尚樹さんの目を見ずに相槌を打つ私。上手く話してくれた峰岸さんに感謝しつつも、尚樹さんへの申し訳なさがつのる。
「そういや、久住さんと面談してたって真理さんが話してたけど何の話?」
突然尚樹さんが私の顔を覗き込む。
「め、面談っ?」
思わず声が裏返る。金子さんの鋭い観察力に驚く。
「応接にいたんだろ?」
動揺する私を疑うかのようにチョコレート色の瞳を眇める尚樹さん。
「み、峰岸さんと久住部長とのお話に同席していただけです!」
暴れ出す鼓動を必死で抑えて答える私。
「あーなるほど。久住さんは峰岸をかまうのが好きだからな」
にやりと上司は悪い笑みを浮かべる。
「……本当に俺に話したいことはない?」
急に真剣な声音で話す上司。がらりと纏う空気が変わる。
ドクンッ。
鼓動が嫌な音を立てた。
まさか、尚樹さんは気づいている?
「桔梗さんはない、ですか……?」
震えそうになる心を叱咤しつつ、恐る恐る返した言葉に、尚樹さんは一瞬だけ私を見る。焦げ茶色の瞳からはその感情が読めない。ただ何かを言いたそうに、苦しげな表情を浮かべる。
……どうしてそんな表情をするの?
私の研修について尚樹さんは、出発前日の今も不思議そうに尋ねてくる。しっかりと私の向かいの空席に腰かけて。
「ええと、いつだったかは覚えてないですけど……」
内心冷や汗をかきながら平静を装って返事をする。
「峰岸は七年目研修だって言うんだけどさぁ、何でこんな夏場にするんだ? それって春じゃなかったか?」
ぱらぱらと研修の日程表を長い指でめくりながら、納得がいかない様子で話す尚樹さん。
「……そうですか」
尚樹さんの目を見ずに相槌を打つ私。上手く話してくれた峰岸さんに感謝しつつも、尚樹さんへの申し訳なさがつのる。
「そういや、久住さんと面談してたって真理さんが話してたけど何の話?」
突然尚樹さんが私の顔を覗き込む。
「め、面談っ?」
思わず声が裏返る。金子さんの鋭い観察力に驚く。
「応接にいたんだろ?」
動揺する私を疑うかのようにチョコレート色の瞳を眇める尚樹さん。
「み、峰岸さんと久住部長とのお話に同席していただけです!」
暴れ出す鼓動を必死で抑えて答える私。
「あーなるほど。久住さんは峰岸をかまうのが好きだからな」
にやりと上司は悪い笑みを浮かべる。
「……本当に俺に話したいことはない?」
急に真剣な声音で話す上司。がらりと纏う空気が変わる。
ドクンッ。
鼓動が嫌な音を立てた。
まさか、尚樹さんは気づいている?
「桔梗さんはない、ですか……?」
震えそうになる心を叱咤しつつ、恐る恐る返した言葉に、尚樹さんは一瞬だけ私を見る。焦げ茶色の瞳からはその感情が読めない。ただ何かを言いたそうに、苦しげな表情を浮かべる。
……どうしてそんな表情をするの?