好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「お前が札幌に戻る日の翌日から俺は東京だから、すれ違いだな」
重苦しくなった空気を断ち切るかのように明るく話を変える尚樹さん。
「えっ、そうなんですか?」
その予定は聞いていなかった。
「ああ、今朝急に決まったんだ。お前の顔もしばらく見れないな」
片眉を下げて笑う、その少年のような表情に胸が疼く。
「私が研修から直接札幌支店に戻れば……」
頭のなかで必死に時間を計算する。
「難しいだろうな。お前の便が到着する頃に俺は搭乗してる」
あっさり言われて心がズンと重くなる。長い時間、顔を見ることができなかったことは初めてではないけれど、やはり辛い。
「前日入りするんですか?」
寂しさにのまれてしまいそうな心を押し隠して尋ねる。
「潤に朝一番で打合せしないといけないから、恐らくそうなるな」
「そうですか」
いつもと変わらない様子で淡々と話す尚樹さん。
どうしてこうなのだろう。「寂しいですね」と一言付け加えればいいだけなのに。
「少しでも会いたいです」と言えばいいだけなのに。
こんな時でさえ可愛い気をもてない私は一般論しか言えない。
「前日入りなんて大変ですね」
当たり障りのないことを告げる唇。違う、本当はこんなことを言いたいわけじゃない。
「お前もな」
いつも通りの笑顔。尚樹さんは周囲に人がいないのを確認して、手を伸ばして私の頰をそっと撫でた。
ドキンドキンドキン……。
鼓動がうるさい。触れられた頰に熱がこもるのがわかる。
「気を付けて。浮気するなよ」
長い指で私の耳朶に触れて、尚樹さんは離れていく。
「その顔、東京でするなよ」
そう言って、なぜか不機嫌な顔で訳のわからない忠告を残した。
重苦しくなった空気を断ち切るかのように明るく話を変える尚樹さん。
「えっ、そうなんですか?」
その予定は聞いていなかった。
「ああ、今朝急に決まったんだ。お前の顔もしばらく見れないな」
片眉を下げて笑う、その少年のような表情に胸が疼く。
「私が研修から直接札幌支店に戻れば……」
頭のなかで必死に時間を計算する。
「難しいだろうな。お前の便が到着する頃に俺は搭乗してる」
あっさり言われて心がズンと重くなる。長い時間、顔を見ることができなかったことは初めてではないけれど、やはり辛い。
「前日入りするんですか?」
寂しさにのまれてしまいそうな心を押し隠して尋ねる。
「潤に朝一番で打合せしないといけないから、恐らくそうなるな」
「そうですか」
いつもと変わらない様子で淡々と話す尚樹さん。
どうしてこうなのだろう。「寂しいですね」と一言付け加えればいいだけなのに。
「少しでも会いたいです」と言えばいいだけなのに。
こんな時でさえ可愛い気をもてない私は一般論しか言えない。
「前日入りなんて大変ですね」
当たり障りのないことを告げる唇。違う、本当はこんなことを言いたいわけじゃない。
「お前もな」
いつも通りの笑顔。尚樹さんは周囲に人がいないのを確認して、手を伸ばして私の頰をそっと撫でた。
ドキンドキンドキン……。
鼓動がうるさい。触れられた頰に熱がこもるのがわかる。
「気を付けて。浮気するなよ」
長い指で私の耳朶に触れて、尚樹さんは離れていく。
「その顔、東京でするなよ」
そう言って、なぜか不機嫌な顔で訳のわからない忠告を残した。