好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
『ありがとう。でも俺、彼女はつくらない主義だから』
潔いくらいにきっぱりと笑顔で言う。
カツン。
おろしたてのヒールがやけに大きな音をたてる。その音は私の心に亀裂を作るみたいに大きく響いて、胸が軋んだ。
『友達、でも無理ですか……?』
向かい合う彼女の声はか細く震えている。よっぽど桔梗さんが好きなんだろう。
『それは期待をもたせちゃうだけになるからね』
とどめのように綻ぶ完璧な笑顔。完璧な拒絶。言葉遣いはやんわりしたものだけど、取りつく島もない。
ドクン、ドクン、ドクン。
なぜか私の鼓動が大きく響く。桔梗さんの普段より感情のない声が胸に刺さる。
『気持ちを向けてくれてありがとう。ごめんね』
桔梗さんよりいくつか幼そうな彼女に向かって礼儀正しく言って、彼は踵を返した。細い路地からスッと現れる姿。そこには何の表情も感情も浮かんでいない。告白されて浮かれた様子も戸惑う様子も後悔も微塵もない。まるでタバコ休憩をしていました、と言わんばかりの無表情を張りつけている。声を押し殺した私に気づくことなく、ビル内に入っていく。
潔いくらいにきっぱりと笑顔で言う。
カツン。
おろしたてのヒールがやけに大きな音をたてる。その音は私の心に亀裂を作るみたいに大きく響いて、胸が軋んだ。
『友達、でも無理ですか……?』
向かい合う彼女の声はか細く震えている。よっぽど桔梗さんが好きなんだろう。
『それは期待をもたせちゃうだけになるからね』
とどめのように綻ぶ完璧な笑顔。完璧な拒絶。言葉遣いはやんわりしたものだけど、取りつく島もない。
ドクン、ドクン、ドクン。
なぜか私の鼓動が大きく響く。桔梗さんの普段より感情のない声が胸に刺さる。
『気持ちを向けてくれてありがとう。ごめんね』
桔梗さんよりいくつか幼そうな彼女に向かって礼儀正しく言って、彼は踵を返した。細い路地からスッと現れる姿。そこには何の表情も感情も浮かんでいない。告白されて浮かれた様子も戸惑う様子も後悔も微塵もない。まるでタバコ休憩をしていました、と言わんばかりの無表情を張りつけている。声を押し殺した私に気づくことなく、ビル内に入っていく。