好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「今度は私が尚樹さんを追いかけたかったの。でも尚樹さんに反対されたらどうしようって恐くて、だけど総合職になりたくて……」
感情が溢れだす。尚樹さんの戸惑った表情が目に入ったけれど止まらなかった。
こらえきれなくなった涙がボロボロ落ちる。最高にカッコ悪い告白、それでも今伝えなきゃ後悔する。
「傍にいたいの、離れたくないの。そのために頑張りたいの……! 尚樹さんが……大好きなの」
涙が混じった声はきっと聞き取りにくい。
こんな場所で大声で泣きながら話している私に案内所の係員の人も呆気に取られている。
それでも伝えたい。気持ちをぶつけずに、反応を怖がって尚樹さんを失いたくない。
あなたが大事だと、離れることは胸が張り裂けそうなくらいに辛いのだと、誰よりも大好きなのだと伝えたい。
「……大好きなの……」
ヒックとみっともない嗚咽が漏れた。情けない自分の姿に呆れるけど、後悔はしていない。
カツン、と小気味良い足音がすぐ近くで響く。
「やっと言ってくれた」
顔を上げると、私をギュウッと抱きしめる尚樹さんの優しいチョコレート色の瞳が映った。とても甘くて温かい目が私を凝視する。間近に彼がいることに安堵して息を吐く。

「莉歩、愛してる」
その言葉に頭が一瞬真っ白になった。
今、何て……?
ドキンドキンドキン、と鼓動が大きく、激しくなる。胸がいっぱいになって言葉が出ずに、ただただ涙が溢れて尚樹さんにしがみついた。尚樹さんはそんな私の頭に優しいキスを落とす。
「気持ちをぶつけてくれて、本当の莉歩を見せてくれてありがとう」
今まで見たなかで一番明るい笑顔で尚樹さんは嬉しそうに言った。

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