好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「どんな莉歩も愛してるから」
ふわっと微笑まれて、もう我慢の限界だった。おさまったはずの涙が再び溢れる。
「泣くなよ、東京に行けなくなる」
困ったような笑顔を見せて尚樹さんはそっと私の涙を長い指で掬ってくれた。
立ち上がって、尚樹さんは手早くふたり分のアイスコーヒーのカップを片付けて、荷物を持つ。
さすがにふたり分のキャリーバッグをひくのは無理なので私は自分のキャリーバッグをひく。私と指を絡めて、尚樹さんはゆっくり歩き出す。
「俺、多分七月には異動になる」
淡々と言う尚樹さんの告白に、わかってはいたけれど、胸が締めつけられた。改めて聞かされると辛い。ほんの少し、端正な顔に悲しそうな表情を浮かべて尚樹さんが私を見つめる。
「黙っていてごめん。言い訳になるけど、不確かな情報でお前を不安にさせたくなかったんだ。そのことが結果的にお前を追い詰めるなんて思わなかったんだ。でも俺はお前を置いていくとか、別れるとかは一回も考えたことはないから」
泣き笑いのような表情の私を見て、尚樹さんがぽんと私の頭を撫でた。
「莉歩が俺を追いかけたいって考えて今回職種変更を希望してくれたこと、驚いたけど嬉しかったよ。お前の想いに泣きそうになった」
彼にしては珍しくしんみりと話す。
「嘘!?」
思わず漏らした声に尚樹さんがムッとする。
「何で嘘なんだよ」
「だって尚樹さんが私のことで泣きそうになるなんて!」
あり得ない! 想像がつかない!
「あのなあ、お前どれだけ俺を振り回しているのかそろそろ自覚しろよ? 俺の悩んだ時間を返せ」
切れ長の目で睨まれ、ムニュと鼻を軽く摘ままれる。ぐいっと検査場の前の柱の影に腕を引っ張られた。
ふわっと微笑まれて、もう我慢の限界だった。おさまったはずの涙が再び溢れる。
「泣くなよ、東京に行けなくなる」
困ったような笑顔を見せて尚樹さんはそっと私の涙を長い指で掬ってくれた。
立ち上がって、尚樹さんは手早くふたり分のアイスコーヒーのカップを片付けて、荷物を持つ。
さすがにふたり分のキャリーバッグをひくのは無理なので私は自分のキャリーバッグをひく。私と指を絡めて、尚樹さんはゆっくり歩き出す。
「俺、多分七月には異動になる」
淡々と言う尚樹さんの告白に、わかってはいたけれど、胸が締めつけられた。改めて聞かされると辛い。ほんの少し、端正な顔に悲しそうな表情を浮かべて尚樹さんが私を見つめる。
「黙っていてごめん。言い訳になるけど、不確かな情報でお前を不安にさせたくなかったんだ。そのことが結果的にお前を追い詰めるなんて思わなかったんだ。でも俺はお前を置いていくとか、別れるとかは一回も考えたことはないから」
泣き笑いのような表情の私を見て、尚樹さんがぽんと私の頭を撫でた。
「莉歩が俺を追いかけたいって考えて今回職種変更を希望してくれたこと、驚いたけど嬉しかったよ。お前の想いに泣きそうになった」
彼にしては珍しくしんみりと話す。
「嘘!?」
思わず漏らした声に尚樹さんがムッとする。
「何で嘘なんだよ」
「だって尚樹さんが私のことで泣きそうになるなんて!」
あり得ない! 想像がつかない!
「あのなあ、お前どれだけ俺を振り回しているのかそろそろ自覚しろよ? 俺の悩んだ時間を返せ」
切れ長の目で睨まれ、ムニュと鼻を軽く摘ままれる。ぐいっと検査場の前の柱の影に腕を引っ張られた。