好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「尚樹さん!?」
突然塞がれた唇。
ギュウッと身体にまわる逞しい腕、信じられないくらい近い距離にある長い睫毛は伏せられている。私をのみ込んでしまいそうな熱を尚樹さんの全身から感じる。激しいキスは尚樹さんが私にぶつけてくれる気持ちのようだ。嵐のような甘いキスに溺れる。
胸が壊れそうなくらい速いリズムを刻む。尚樹さんの腕を掴む指先は悲しいくらいに力が入らない。
「仲直りと約束のキス、な?」
唇を離して、いたずらっぽく笑う尚樹さんは凄絶な色気を放つ。見つめる私の顔はすでに真っ赤になっている。
「尚樹さん……!」
私を抱き止めて尚樹さんは妖しく笑う。
「俺は案内所で莉歩を見つけたときからずっとキスしたかった」
声にすら色気を含ませて尚樹さんは私の耳元で囁く。その声に肌がゾクリと粟立つ。

「東京行きたくないな」
ぽすんと尚樹さんが私の肩に額を置く。さっきまでの態度とは全く違う子どもみたいな言葉に小さく笑う。
「私も行ってほしくない」
雫した本音に尚樹さんが切れ長の目を丸くさせて顔を上げた。
「莉歩、本当に!?」
なぜか嬉しそうに笑う尚樹さん。
「え、私も一緒にいたい、し」
何か変なこと言った、私!?
おろおろと目を泳がせる私を尚樹さんは息も出来ないくらいに強く抱きしめた。
「すげー嬉しい……!」
喜びを露わにする彼に慌てる。
「な、尚樹さんっ!?」
ドクン、とその無邪気な笑顔と反応に鼓動が大きく跳ねた。
ああ、こんなに簡単なことだったんだ。私がきちんと気持ちをぶつければ尚樹さんはこんなにも喜んで気持ちを返してくれたんだ。
今さらながらに気づいた事実は私の身体を駆け巡って、やっと本当に尚樹さんの彼女になれた気がした。
「ありがとう、莉歩。そうやってこれからも、気持ちをぶつけろよ」
ニッと口角を上げて微笑む尚樹さんに頷く。
「さっさと用事を済ませて帰って来るから。莉歩が頑張ってくれた分、俺も闘ってくるから。お前と離れないためなら、俺は何でもできるよ」
輝くような眩しい笑顔で私のピアスにキスを落として尚樹さんは検査場に向かう。

「行ってくる、莉歩。いい子で待ってて」
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