好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
尚樹さんを見送った後、私は一旦、札幌支店に戻った。峰岸さんは自席で私の顔を見るなり、言った。
「仲直りできたのね、よかったじゃない。本当に手がかかるわね。まあ仲直りしてもらわなくちゃ困るんだけど」
軽く溜め息をつく峰岸さん。
「どうしてわかるんですかっ!?」
一気に顔が赤くなる私。
「あなた鏡、見た? 物凄く幸せそうな顔をしてるわ」
峰岸さんは口角を上げて笑う。私は両手で両頰を覆った。そんな私を峰岸さんは優しい目で見つめてくれる。
「峰岸さん、本当にありがとうございました。桔梗さんと話す時間をくださって」
ぺこりと頭を下げた。そう、何もかも峰岸さんのおかげだ。
「私の最終面談を久住部長に頼んで下さったのも、飛行機の便を早めて下さったのも峰岸さんですよね」
私と桔梗さんに話をさせるため、峰岸さんは久住部長に恐らく頭を下げてくださった。峰岸さんは一瞬ばつが悪そうな表情をして、それから少し赤くなって無愛想に言う。
「桔梗くんが嫌味を言ってくるから仕方なくよ。あなたももう今日はいいから帰りなさい」
私を追い払うように峰岸さんは手をひらひらさせて、手元の書類に目を落とす。
「本当にありがとうございました」
もう一度お礼を告げた私に峰岸さんは小さく笑う。
「桔梗くんと幸せにね。ああ見えて彼は一途な人だから」
頰が熱くなるのを感じながら私は満面の笑みを返す。
「彼は本気よ、だからあなたはあなたの為すべきことをして彼を待っていてあげたらいいんじゃない? あなた、職種変更は恐らく合格だから」
淡々と話す峰岸さんの、綺麗にマスカラが塗られた目を驚いて見返す。
「本当ですかっ!?」
「ええ。そもそもあの研修は合格が本決まりになっている人だけが受講するものだから。最終面談は最終的な意思確認、といったところかしらね」
「だから自分だけ昼休みに面談でフェアじゃないなんて思う必要ないわよ」と私の考えを読んだかのように峰岸さんが言う。
図星だった。
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