好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
背中から追ってくる瀬尾さんの視線を振り払って信号を渡る。普段は地下空間を通るので地上をこの時間帯に歩くのは久しぶりだ。
私と同じように仕事帰りの人が溢れる。
見上げた真っ暗な空には涙の雫のような星が瞬く。明るい月は見つからない。
ブーッブーッブーッ。
バッグに入れたスマートフォンが音を立てる。立ち止まって取り出したスマートフォンの画面には知らない番号の表示。訝しみながら、そのままバッグにスマートフォンを戻す。振動が止んで、私は大通駅に向かってまた歩き出す。
ブーッブーッブーッ。
諦めずに再び振動するスマートフォン。無視を決め込む。再び止む振動。歩き続ける私。
ブーッブーッブーッ。
しつこく振動するスマートフォンに根負けした私は恐る恐る、通話ボタンを押す。
『……はい』
『何かあった?』
耳に直接響く低音。名乗ることも、前置きすらない。なのに通話の相手が誰かわかってしまう。
『……お疲れ様です』
ふっと電話ごしに聞こえるいつも通りの笑み。
『質問の答えになってない』
『何もないですよ』
毅然と聞こえるようにわざと強い口調で話す。
『潤がお前の様子がおかしかったって言ってたぞ』
瀬尾さんのお節介!
『……だから電話、してきたんですか?』
普段は放ったらかしなくせに。こんな時だけ過保護になるなんてズルい。
『上司だからな。後ろ、見て』
振り返ると、数メートル後ろに、夜に溶け込むような紺地の濃い色のスーツを身に付けた桔梗さんがスマートフォンを耳に当てて立っていた。
私と同じように仕事帰りの人が溢れる。
見上げた真っ暗な空には涙の雫のような星が瞬く。明るい月は見つからない。
ブーッブーッブーッ。
バッグに入れたスマートフォンが音を立てる。立ち止まって取り出したスマートフォンの画面には知らない番号の表示。訝しみながら、そのままバッグにスマートフォンを戻す。振動が止んで、私は大通駅に向かってまた歩き出す。
ブーッブーッブーッ。
諦めずに再び振動するスマートフォン。無視を決め込む。再び止む振動。歩き続ける私。
ブーッブーッブーッ。
しつこく振動するスマートフォンに根負けした私は恐る恐る、通話ボタンを押す。
『……はい』
『何かあった?』
耳に直接響く低音。名乗ることも、前置きすらない。なのに通話の相手が誰かわかってしまう。
『……お疲れ様です』
ふっと電話ごしに聞こえるいつも通りの笑み。
『質問の答えになってない』
『何もないですよ』
毅然と聞こえるようにわざと強い口調で話す。
『潤がお前の様子がおかしかったって言ってたぞ』
瀬尾さんのお節介!
『……だから電話、してきたんですか?』
普段は放ったらかしなくせに。こんな時だけ過保護になるなんてズルい。
『上司だからな。後ろ、見て』
振り返ると、数メートル後ろに、夜に溶け込むような紺地の濃い色のスーツを身に付けた桔梗さんがスマートフォンを耳に当てて立っていた。