好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
ドンッ。
何かを落としたような大きな音が鳴った。
『……悪い、手が滑った』
思わず見惚れてしまいそうな笑顔を貼りつける落とし主。だけどその目は後退りをしたくなるくらいに冷たい。足元には新品のコピー用紙が詰まった重い箱。
『あ……だ、大丈夫ですか、桔梗さん』
我に返って口にする私に、桔梗さんはふわっと柔らかい表情を見せる。
『お前はやっぱり、すぐ人を心配するんだな』
え……?
桔梗さんは屈んでコピー用紙の箱を持ち上げながら、低い声で呟く。
『こういうのもさ、勝手に運ばれてくるもんじゃないよな。この支店は総務がないから、各係や誰かが管理してる。紙やトナーを必要な時に切らしたことがない理由を考えたことある?』
『えっ、それは誰かが……』
腰を上げて、麗しい微笑みを浮かべ、桔梗さんはさっき私のことを話していた女の子たちを見た。
『誰かって誰?』
言葉に詰まる彼女たち。
桔梗さんは何が言いたいの?
なぜだかわからないけれど思い切り不機嫌だということがわかる。先刻からずっとぴりぴりした雰囲気を身に纏っている。
『なあ、誰だと思う?』
普段聞かない低い声に周囲の温度が二、三度下がった気がする。
『藤井だよ。藤井は自分の業務時間を割いて誰に言われることもなく、皆のために備品を管理してる』
私をチョコレート色の綺麗な瞳で見つめながら、桔梗さんが言う。
『で、でもそれは藤井さんしか知らないから……』
怯まずに何か言おうとする女の子を、氷のように冷えた眼差しで桔梗さんが見る。
『そうだな、俺たちは知ろうともしてない。それが当り前だって思ってるから。でも違うよな? 知りたかったら聞くべきだし、聞かないなら何も言う資格はない』
今度こそ女の子は黙り込んでしまう。
何かを落としたような大きな音が鳴った。
『……悪い、手が滑った』
思わず見惚れてしまいそうな笑顔を貼りつける落とし主。だけどその目は後退りをしたくなるくらいに冷たい。足元には新品のコピー用紙が詰まった重い箱。
『あ……だ、大丈夫ですか、桔梗さん』
我に返って口にする私に、桔梗さんはふわっと柔らかい表情を見せる。
『お前はやっぱり、すぐ人を心配するんだな』
え……?
桔梗さんは屈んでコピー用紙の箱を持ち上げながら、低い声で呟く。
『こういうのもさ、勝手に運ばれてくるもんじゃないよな。この支店は総務がないから、各係や誰かが管理してる。紙やトナーを必要な時に切らしたことがない理由を考えたことある?』
『えっ、それは誰かが……』
腰を上げて、麗しい微笑みを浮かべ、桔梗さんはさっき私のことを話していた女の子たちを見た。
『誰かって誰?』
言葉に詰まる彼女たち。
桔梗さんは何が言いたいの?
なぜだかわからないけれど思い切り不機嫌だということがわかる。先刻からずっとぴりぴりした雰囲気を身に纏っている。
『なあ、誰だと思う?』
普段聞かない低い声に周囲の温度が二、三度下がった気がする。
『藤井だよ。藤井は自分の業務時間を割いて誰に言われることもなく、皆のために備品を管理してる』
私をチョコレート色の綺麗な瞳で見つめながら、桔梗さんが言う。
『で、でもそれは藤井さんしか知らないから……』
怯まずに何か言おうとする女の子を、氷のように冷えた眼差しで桔梗さんが見る。
『そうだな、俺たちは知ろうともしてない。それが当り前だって思ってるから。でも違うよな? 知りたかったら聞くべきだし、聞かないなら何も言う資格はない』
今度こそ女の子は黙り込んでしまう。