好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
『こんにちは、セイさん』
カラン、と懐かしい鐘の音を響かせて桔梗さんが重たい木目調のドアを開けた。ドアの横に『桜』と店名らしきプレートが提げられていた。
『やあ、いらっしゃい』
ぷうん、と薫るコーヒーの香ばしい香り。温かくてどこか懐かしい雰囲気が漂う。カウンターに三つのテーブル席。そのうちのひとつのテーブル席には壮年の男性が座っていた。使い込まれた木製の椅子。出窓にかかる白い繊細なレースのカーテン。置かれた小さな植木鉢。すべてが温かくて落ち着いた雰囲気を醸し出していて、時間が過ぎるのを忘れてしまいそうだ。
『平日に来るのは珍しいね。そちらの可愛らしいお嬢さんは尚樹くんの彼女?』
カウンターの中から四十代位の男性がにこやかに声をかける。
『あ、そう……』
桔梗さんはご機嫌な表情で口を開く。
『部下です!』
桔梗さんが余計なことを言う前に答える。
『……お前本当、冗談通じないな』
軽く睨まれる私。
『真実をお伝えすることが一番大事ですから』
いつものように言い合う私たちにセイさん、と呼ばれたご主人は柔らかく微笑む。
『尚樹くんが女性の前でそんなにも素直なのは珍しいね。初めまして、この店の主人の三橋誠です』
ほんの少し面白そうに三橋さんは言う。
『赴任してきてすぐの頃、この辺りを散策していたらたまたま見つけたのがこの店だったんだ。入ってみたらコーヒーは美味いし、セイさんは話しやすいし店の雰囲気も好きで、よく来てるんだ』
桔梗さんが説明してくれた。
『俺の部下の藤井。彼女もこの近所に住んでいるからこれからよろしくね』
真面目に紹介されて私は慌てて頭を下げた。
『藤井莉歩です。よろしくお願いします』
『可愛いお嬢さんだね、よろしくね。僕のことは好きに呼んでくれていいからね、尚樹くんは僕の名前を音読みで呼んでいるけど』
相好を崩して微笑む三橋さんに、なぜか仏頂面の桔梗さん。
カラン、と懐かしい鐘の音を響かせて桔梗さんが重たい木目調のドアを開けた。ドアの横に『桜』と店名らしきプレートが提げられていた。
『やあ、いらっしゃい』
ぷうん、と薫るコーヒーの香ばしい香り。温かくてどこか懐かしい雰囲気が漂う。カウンターに三つのテーブル席。そのうちのひとつのテーブル席には壮年の男性が座っていた。使い込まれた木製の椅子。出窓にかかる白い繊細なレースのカーテン。置かれた小さな植木鉢。すべてが温かくて落ち着いた雰囲気を醸し出していて、時間が過ぎるのを忘れてしまいそうだ。
『平日に来るのは珍しいね。そちらの可愛らしいお嬢さんは尚樹くんの彼女?』
カウンターの中から四十代位の男性がにこやかに声をかける。
『あ、そう……』
桔梗さんはご機嫌な表情で口を開く。
『部下です!』
桔梗さんが余計なことを言う前に答える。
『……お前本当、冗談通じないな』
軽く睨まれる私。
『真実をお伝えすることが一番大事ですから』
いつものように言い合う私たちにセイさん、と呼ばれたご主人は柔らかく微笑む。
『尚樹くんが女性の前でそんなにも素直なのは珍しいね。初めまして、この店の主人の三橋誠です』
ほんの少し面白そうに三橋さんは言う。
『赴任してきてすぐの頃、この辺りを散策していたらたまたま見つけたのがこの店だったんだ。入ってみたらコーヒーは美味いし、セイさんは話しやすいし店の雰囲気も好きで、よく来てるんだ』
桔梗さんが説明してくれた。
『俺の部下の藤井。彼女もこの近所に住んでいるからこれからよろしくね』
真面目に紹介されて私は慌てて頭を下げた。
『藤井莉歩です。よろしくお願いします』
『可愛いお嬢さんだね、よろしくね。僕のことは好きに呼んでくれていいからね、尚樹くんは僕の名前を音読みで呼んでいるけど』
相好を崩して微笑む三橋さんに、なぜか仏頂面の桔梗さん。