好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
私、藤井莉歩には苦手なタイプの人がいる。誰にでも、特に女子にやたらと優しく親切でチャラチャラした軽い人。嫌い、というより自身がどう付き合えばいいのかわからない。
高校時代からの親友、和田菜々からいつも言われる私の性格は、可愛げがなく世話焼きで、付け入る隙がない。真面目で融通がきかない、負けず嫌い、そんなあまり嬉しくないものばかり。間違っても仕事以外で愛想笑いなんてできない。

私は世間一般にメガバンクと言われる都市銀行に勤務している。
生まれも育ちも札幌で、就職を機に北海道を出ることも考えたけれど、たまたま希望していた今の会社が、札幌限定勤務の事務職を募集していた。私が勤務するこの銀行は北海道には札幌支店ひとつしか店舗がない。優秀な総合職の人は全国から転勤してやって来るけれど、事務職は現地在住の人が採用される。北海道、と一言にいってもひろく、札幌支店に勤務可能な人は限られる。運よく私は採用され、預金係を経験して現在は五年目。融資事務や忙しいときは営業係の補佐を担当している。

札幌支店の最寄駅である大通駅は、私の自宅最寄駅である円山公園駅から地下鉄東西線で三つととても近い。実家は車がないと不便な場所にある。運転が苦手なせいもあり、就職と同時に私は独り暮らしを始めた。
円山公園駅から徒歩十分程の場所にある、オフホワイトのタイルが貼られた外観が綺麗なオートロックのマンション。私の独り暮らしに心配症の両親が出した条件がオートロックのマンションに住むことだった。
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