好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「よお、潤。美羽ちゃんは元気か?」
橘さんの赴任初日から下の名前を呼び、瀬尾さんに大いに睨まれていた私の上司の声がした。
「元気だよ」
なぜかぶすっとした表情の瀬尾さん。
「朝から不機嫌だな」
不思議そうに言う桔梗さん。
「お前ら、俺の写真をまた無断で美羽に送信しただろ!」
憤慨した様子の瀬尾さん。
「やあね、ちゃんと確認したじゃない。おはよう、瀬尾くん」
凛とした女性の声が響く。振り返ると峰岸祐希さん、瀬尾さんの後任の課長が今日も隙のないベージュのパンツスーツで立っていた。黒いさらさらの肩までのストレートの髪にくっきりとした二重瞼。いつ見ても綺麗で完璧な大人の女性。
「してない!」
「確認しました。しつこい男は嫌われるわよ。会議始まるから、急いで」
峰岸さんは余裕の美麗な笑みを浮かべる。瀬尾さんは不貞腐れつつ、会議室に峰岸さんと連れだって歩いていく。
「おはよ、藤井。はい、カイロ」
桔梗さんが使い捨てカイロを私に手渡してくれる。袋から出して、ある程度温められている。
桔梗さんは私の手が冷え症でいつも冷たいことを知っている。そのくせ出がけに、カイロを忘れてしまうことも。何も言わなくても最近は当たり前のように、カイロを毎朝私に手渡してくれる。
「……ありがとうございます」
「ちゃんと温めろよ」
これも毎日言われる台詞。桔梗さんの声はこの瞬間いつも心配そうで「大丈夫ですよ」と慰めたくなってしまう。
桔梗さんは意外なところで心配性だ。
橘さんの赴任初日から下の名前を呼び、瀬尾さんに大いに睨まれていた私の上司の声がした。
「元気だよ」
なぜかぶすっとした表情の瀬尾さん。
「朝から不機嫌だな」
不思議そうに言う桔梗さん。
「お前ら、俺の写真をまた無断で美羽に送信しただろ!」
憤慨した様子の瀬尾さん。
「やあね、ちゃんと確認したじゃない。おはよう、瀬尾くん」
凛とした女性の声が響く。振り返ると峰岸祐希さん、瀬尾さんの後任の課長が今日も隙のないベージュのパンツスーツで立っていた。黒いさらさらの肩までのストレートの髪にくっきりとした二重瞼。いつ見ても綺麗で完璧な大人の女性。
「してない!」
「確認しました。しつこい男は嫌われるわよ。会議始まるから、急いで」
峰岸さんは余裕の美麗な笑みを浮かべる。瀬尾さんは不貞腐れつつ、会議室に峰岸さんと連れだって歩いていく。
「おはよ、藤井。はい、カイロ」
桔梗さんが使い捨てカイロを私に手渡してくれる。袋から出して、ある程度温められている。
桔梗さんは私の手が冷え症でいつも冷たいことを知っている。そのくせ出がけに、カイロを忘れてしまうことも。何も言わなくても最近は当たり前のように、カイロを毎朝私に手渡してくれる。
「……ありがとうございます」
「ちゃんと温めろよ」
これも毎日言われる台詞。桔梗さんの声はこの瞬間いつも心配そうで「大丈夫ですよ」と慰めたくなってしまう。
桔梗さんは意外なところで心配性だ。