好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「莉歩、いつまで恋愛スイッチ切ってるの? 付き合った思い出が全部最後には同じ結果だったからとか、幸せな思い出じゃなかったってことは知ってる。だけどそれと莉歩が恋愛をしない、こりごりだって思うのは違うんじゃない?」
菜々がさっきとはうってかわって気遣わし気な表情をする。心配してくれていることはわかっている。
私の過去の恋愛を、恋愛と呼べるものだったのか今では自信すらないけれど、それらをずっと傍で見てきてくれたから。
菜々みたいに、普通の女の子みたいに、可愛く素直に甘えたり話したりできない私に段々愛想をつかしていく彼氏。なかなか本音を言えない私にもどかしさを感じる彼氏。
可愛い言い方ができない私に呆れる彼氏。
嫌われたくなくて、世話を焼いてしまう私に“母親”を感じてしまう彼氏。
いつも大体こういう同じパターンで終わってしまう。
「思っていた人と違う」は何度言われただろう。
ドラマみたいに身を焦がすような恋はしたことはない。胸がドキドキして眠れぬ夜を過ごすような恋もしたことはないけれど、私なりに恋をしていたつもりだった。
だけど、相手に望まれる私にはいつもなれない。そもそもそれが正解かもわからず、心の距離が離れていく。その距離を取り戻す術さえわからず。何をどう伝えれば、何をどう表現すれば、状況が変わって彼の気持ちが変わるのかすらわからずに、私は曖昧な笑顔をいつも貼り付けていた。
可愛げのない私。自信のない私。
そんな自分が嫌なのに、そんな自分にしかなれずに、私はずっと同じ場所で足踏みしていた。


< 42 / 163 >

この作品をシェア

pagetop