好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「莉歩にクリスマスお見合い会、参加しないかって誘ってたんです」
さらりと正直に話す菜々。何で初対面の面倒な上司にそんなことを話すのよ!
「……お見合い会?」
途端に低くなる桔梗さんの声。
「ええ、いわゆる婚活パーティみたいなものです。気さくなものらしいんですが」
にこにこ無邪気に話す親友に、視線でそれ以上話さないように懇願する。
「へえ、それにおふたりで参加を? 和田さんならたくさんお相手がいらっしゃいそうなのに」
焦げ茶色の瞳を柔らかく細めて笑みを浮かべる上司。
「まあ、ありがとうございます! 私ではなく莉歩を連れていきたいんです」
 話してほしくないことばかりを菜々はぺらぺらと話す。
「へえ………」
菜々と話してるくせに睨みつけるような視線はずっと私に注がれていて、居たたまれない私は俯く。
どうしてこんなに不機嫌なのかわからない。確かに桔梗さんに黙って外出はしたけれど、瀬尾さんの許可はとったのに。
「やだ、もうこんな時間! ごめん、莉歩。また電話するから、返事聞かせて!」
交差点に備え付けられている大きな時計に目をやって、急いで菜々は青信号になったばかりの交差点を走り去っていく。爽やかに片手を振りながら。
私の背中には桔梗さんから痛いくらいの強い視線が刺さっていた。
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