好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
閉店時間を過ぎて、今日使用した資料を戻すため地下の資料室に向かう途中、帰社した瀬尾さんに会った。
「お疲れ様です」
声をかけると瀬尾さんが足を止めた。
「藤井、悪かったな。昼休みの件、すぐばれて」
「……いえ、驚きましたけど瀬尾さんに謝っていただくことではないです」
瀬尾さんが苦笑した。
「アイツ、藤井がいないことを金子さんから聞いてすぐ、俺に電話をかけてきたんだ。やたら不機嫌で、あんな桔梗は初めて見た」
「不機嫌の理由がよくわからないんですが」
困惑して言う私。
「いや、わかるよ。俺がアイツの立場だったら不機嫌になるから」
ふっと口角を上げて可笑しそうに笑う瀬尾さん。このふたりの美形はやたらと曲者だ。
「意味がわかりません」
「そのうちわかるよ。アイツも苦労するな。でもまあ、桔梗は何より藤井を大切にしているからそれだけはわかってやって」
「お疲れ様」と相変わらず楽しそうに瀬尾さんはフロアに戻っていく。
資料室に入り、腕に抱えていたファイルを棚に戻す。
無意識に溜め息が漏れた。
地下の資料室は離れているため、店内の喧騒をほんの少し忘れる。ドアを開けるとすぐに大きな書架が視界を塞ぐ。私の前後にも天井近くまでそびえる書架。そこにぎっしり、剥き出しのファイルや資料が詰まった段ボールが収納されている。
「お疲れ様です」
声をかけると瀬尾さんが足を止めた。
「藤井、悪かったな。昼休みの件、すぐばれて」
「……いえ、驚きましたけど瀬尾さんに謝っていただくことではないです」
瀬尾さんが苦笑した。
「アイツ、藤井がいないことを金子さんから聞いてすぐ、俺に電話をかけてきたんだ。やたら不機嫌で、あんな桔梗は初めて見た」
「不機嫌の理由がよくわからないんですが」
困惑して言う私。
「いや、わかるよ。俺がアイツの立場だったら不機嫌になるから」
ふっと口角を上げて可笑しそうに笑う瀬尾さん。このふたりの美形はやたらと曲者だ。
「意味がわかりません」
「そのうちわかるよ。アイツも苦労するな。でもまあ、桔梗は何より藤井を大切にしているからそれだけはわかってやって」
「お疲れ様」と相変わらず楽しそうに瀬尾さんはフロアに戻っていく。
資料室に入り、腕に抱えていたファイルを棚に戻す。
無意識に溜め息が漏れた。
地下の資料室は離れているため、店内の喧騒をほんの少し忘れる。ドアを開けるとすぐに大きな書架が視界を塞ぐ。私の前後にも天井近くまでそびえる書架。そこにぎっしり、剥き出しのファイルや資料が詰まった段ボールが収納されている。