好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「なあ」
桔梗さんと過ごしてきた中で最も低い声を聞いて、ピクン、と私の肩が跳ねた。
普段からは考えられないくらいの無表情。コツン、と響いた靴音。
桔梗さんと私の距離は一メートルもない。資料室の一番奥にいる私の背後は壁で、両脇はそびえ立つ書架……逃げ場所がない。
どうしてここにいるの?
こんな場所、普段、彼は来ない。
「俺に外出許可取らなかった理由は?」
あっという間に距離を詰めて、私の顔のすぐ横に手をつく桔梗さん。美麗な顔立ちに滲む不機嫌さ。気怠気に私を見下ろす目にはイラ立ちさえ感じる。
「お見合い会に行きたいから? それとも和田さん以外の人がランチにいた?」
意味のわからない言葉に思考が一瞬鈍って、慌てて言い返す。
「ち、違います! あの話は今日、菜々から初めて聞いたんです! き、今日はただ菜々とふたりでランチをしようって話してただけで……」
「へえ? じゃあ何で俺に許可をとらないの?」
何でそこに拘るの!
きっと顔を上げる私に桔梗さんは小首を傾げる。腹が立つのにそんな姿さえカッコいい。
「疚しいことがないなら俺に許可をとればいいだろ?」
「き、桔梗さんが、きっとあれこれ聞いてきて、すんなり行かせてくれなさそうだと思ったからですよっ!」
「は?」
やけくそになって話すと、目を見開いてぽかんとした表情の桔梗さんがいた。
桔梗さんと過ごしてきた中で最も低い声を聞いて、ピクン、と私の肩が跳ねた。
普段からは考えられないくらいの無表情。コツン、と響いた靴音。
桔梗さんと私の距離は一メートルもない。資料室の一番奥にいる私の背後は壁で、両脇はそびえ立つ書架……逃げ場所がない。
どうしてここにいるの?
こんな場所、普段、彼は来ない。
「俺に外出許可取らなかった理由は?」
あっという間に距離を詰めて、私の顔のすぐ横に手をつく桔梗さん。美麗な顔立ちに滲む不機嫌さ。気怠気に私を見下ろす目にはイラ立ちさえ感じる。
「お見合い会に行きたいから? それとも和田さん以外の人がランチにいた?」
意味のわからない言葉に思考が一瞬鈍って、慌てて言い返す。
「ち、違います! あの話は今日、菜々から初めて聞いたんです! き、今日はただ菜々とふたりでランチをしようって話してただけで……」
「へえ? じゃあ何で俺に許可をとらないの?」
何でそこに拘るの!
きっと顔を上げる私に桔梗さんは小首を傾げる。腹が立つのにそんな姿さえカッコいい。
「疚しいことがないなら俺に許可をとればいいだろ?」
「き、桔梗さんが、きっとあれこれ聞いてきて、すんなり行かせてくれなさそうだと思ったからですよっ!」
「は?」
やけくそになって話すと、目を見開いてぽかんとした表情の桔梗さんがいた。