好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「冗談で言うわけないだろ? 部下に告白するのに。俺は本気でお前の彼氏になりたい」
そっと桔梗さんが私の髪に大きな手で触れた。身体に走る微かな震え。
「な……んで? どうして私、なの?」
聞きたいことはたくさんあるはずなのに、顔を上げたまま言葉にできたことは、それだけだった。声が、喉の奥に張り付いて掠れる。
「藤井が好きだから。それしか、ない」
チョコレート色の綺麗な瞳が真っ直ぐ私を射抜く。
ドクン、と鼓動がひとつ大きな音をたてた。
どこまでも、潔い答え。どこまでもこの上司らしい簡潔な答えに、部下の性として、わかってしまう。桔梗さんの言葉に嘘がないことを。
「わ、私、恋愛に向いてない。スイッチ切ってる、ので」
口から滑りでるのは情けないくらいに支離滅裂な言葉。告白の返事でも何でもない。
限界に近いくらいにのぼせてしまった身体と頰は私からまともな思考を奪っていく。
痛いくらいに高鳴る鼓動さえ、もうよくわからない。
「何で……?」
聞いたことのない優しい桔梗さんの声が耳を震わせてゾクリ、と肌が粟立つ。
こんなの、おかしい。何で、こんな声を出すの。
「俺を彼氏にすることに、問題なのはそれだけ?」
解決方法を取るために一番必要なことは何か? 潰さなくてはいけない問題点は何か?
上司である彼から幾度も言われたこと。彼は今、それを業務以外で忠実に遂行している。スッと長い指が頰に触れる。熱を帯びた頰に桔梗さんの冷たい指の感触が気持ちいい。
触れられているのに、どうしていつも私は嫌じゃないのだろう。桔梗さんの触れ方が、泣きたいくらいに優しいから? 私を見下ろすその目が胸が痛くなるくらいに優しいから? もうわからない。
そっと桔梗さんが私の髪に大きな手で触れた。身体に走る微かな震え。
「な……んで? どうして私、なの?」
聞きたいことはたくさんあるはずなのに、顔を上げたまま言葉にできたことは、それだけだった。声が、喉の奥に張り付いて掠れる。
「藤井が好きだから。それしか、ない」
チョコレート色の綺麗な瞳が真っ直ぐ私を射抜く。
ドクン、と鼓動がひとつ大きな音をたてた。
どこまでも、潔い答え。どこまでもこの上司らしい簡潔な答えに、部下の性として、わかってしまう。桔梗さんの言葉に嘘がないことを。
「わ、私、恋愛に向いてない。スイッチ切ってる、ので」
口から滑りでるのは情けないくらいに支離滅裂な言葉。告白の返事でも何でもない。
限界に近いくらいにのぼせてしまった身体と頰は私からまともな思考を奪っていく。
痛いくらいに高鳴る鼓動さえ、もうよくわからない。
「何で……?」
聞いたことのない優しい桔梗さんの声が耳を震わせてゾクリ、と肌が粟立つ。
こんなの、おかしい。何で、こんな声を出すの。
「俺を彼氏にすることに、問題なのはそれだけ?」
解決方法を取るために一番必要なことは何か? 潰さなくてはいけない問題点は何か?
上司である彼から幾度も言われたこと。彼は今、それを業務以外で忠実に遂行している。スッと長い指が頰に触れる。熱を帯びた頰に桔梗さんの冷たい指の感触が気持ちいい。
触れられているのに、どうしていつも私は嫌じゃないのだろう。桔梗さんの触れ方が、泣きたいくらいに優しいから? 私を見下ろすその目が胸が痛くなるくらいに優しいから? もうわからない。