好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「なあ、嫌われたくない、って言ってる時点で俺を意識してるよな? 少なくとも俺を嫌いじゃないだろ?」
年上なのに、まるで少年のようにあどけない笑顔で話す桔梗さん。
本当に表情がクルクル変わる。一見、近寄りがたいくらい整った容貌をしているのに、身がすくみそうな雰囲気を纏う時もあるのに。そんなことを感じさせない、くだけた表情を浮かべる
。その姿に、その目に惹き付けられて、振り回されてしまう。今だって、私が真剣に提示した問題点を、躊躇いもなく、何でもないことのようにすべてひっくり返した。
「俺をどう想ってる?」
私を射抜く凄艶な焦げ茶色の瞳。誤魔化そうともしない、真っ直ぐな言葉が胸をうつ。桔梗さんはこういう人だ。
「嫌いじゃないです……」
精一杯の本心。天の邪鬼な本心。
“好き”に限りなく近い“嫌いじゃない”。
真っ赤に茹だった顔で言うには説得力がないかもしれない。“嫌いじゃない”の意味は“好き”だって、きっと有能なこの人は気づいている。はっきりと言えない私。
だって、わからない。そんな風に桔梗さんを、異性を見たことなんて、もうずっとないから。恋する気持ち、なんてわからない。
「可愛い」
「か、可愛くなんか、ないです!」
必死に腕を突っ張る私をやすやす捕らえて抱き込む。
「危ないから暴れない。ちゃんと抱きしめさせて」
耳元で囁く声が甘過ぎて、力が抜ける。意地を張っている自分が馬鹿馬鹿しく思えるくらいに。
コツン、と桔梗さんが私の額に自分の額を合わせる。
「お前が恋愛を恐がっているのは何となくわかる。原因はわからないけど。無理強いはしない。だからお前のペースで俺を好きになって。俺がお前に気持ちを注ぐから」
額からじんわりと伝わる高い体温。胸が苦しい。止まったはずの涙が再び目に盛り上がる。
「覚悟しろよ? 何があっても絶対に俺はお前を離さない」
言葉はどこまでも不遜なのに、切なささえ混じる優しい声に涙が零れ落ちた。
年上なのに、まるで少年のようにあどけない笑顔で話す桔梗さん。
本当に表情がクルクル変わる。一見、近寄りがたいくらい整った容貌をしているのに、身がすくみそうな雰囲気を纏う時もあるのに。そんなことを感じさせない、くだけた表情を浮かべる
。その姿に、その目に惹き付けられて、振り回されてしまう。今だって、私が真剣に提示した問題点を、躊躇いもなく、何でもないことのようにすべてひっくり返した。
「俺をどう想ってる?」
私を射抜く凄艶な焦げ茶色の瞳。誤魔化そうともしない、真っ直ぐな言葉が胸をうつ。桔梗さんはこういう人だ。
「嫌いじゃないです……」
精一杯の本心。天の邪鬼な本心。
“好き”に限りなく近い“嫌いじゃない”。
真っ赤に茹だった顔で言うには説得力がないかもしれない。“嫌いじゃない”の意味は“好き”だって、きっと有能なこの人は気づいている。はっきりと言えない私。
だって、わからない。そんな風に桔梗さんを、異性を見たことなんて、もうずっとないから。恋する気持ち、なんてわからない。
「可愛い」
「か、可愛くなんか、ないです!」
必死に腕を突っ張る私をやすやす捕らえて抱き込む。
「危ないから暴れない。ちゃんと抱きしめさせて」
耳元で囁く声が甘過ぎて、力が抜ける。意地を張っている自分が馬鹿馬鹿しく思えるくらいに。
コツン、と桔梗さんが私の額に自分の額を合わせる。
「お前が恋愛を恐がっているのは何となくわかる。原因はわからないけど。無理強いはしない。だからお前のペースで俺を好きになって。俺がお前に気持ちを注ぐから」
額からじんわりと伝わる高い体温。胸が苦しい。止まったはずの涙が再び目に盛り上がる。
「覚悟しろよ? 何があっても絶対に俺はお前を離さない」
言葉はどこまでも不遜なのに、切なささえ混じる優しい声に涙が零れ落ちた。