好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
彼が過去好きになった女性。
可愛い台詞ひとつ言えない私に対してさえも、桔梗さんはとても優しく真摯に大事にしてくれる。支店での、あの軽いヘラヘラした女の子への口調からは想像できないくらいに大切にしてくれる。
当たり前だけど、仕方がないことだけど、私以外にお姫様のように大切に扱ってもらった女性がいた事実に、なぜか胸がもやもやする。桔梗さんに尋ねたことはない。彼のことだからきっと言いにくそうにしても話してくれるだろうけれど。
尋ねることが、できない。尋ねることが、怖い。自分のだめさ加減を思い知らされそうだから。皆それぞれ過去があって今がある。わかっているのに、頭では理解しているのに。私だって過去に付き合ってきた人はいるのに。心がざわつく。
私が過去に付き合ってきた人たちを思い出そうとしても、もう殆んど思い出せないのは、私が薄情だからなのだろうか。
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