好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
「桔梗さん効果もなかなかよね。クリスマス商戦に全く乗らなかった莉歩を動かすんだから」
ニヤリと笑う菜々の顔が恥ずかしくて直視できなかった。

ふたりだけのパーティーは緩い感じで始まった。
お風呂は既に済ませてお互いに素っぴんだ。
お酒に強い菜々がシャンパンをおかわりした時、私のスマートフォンが着信を告げた。液晶画面に浮かぶ名前は桔梗さん。
ドクン、と心臓が大きな音をたてる。無意識にラグの上で正座して固まってしまう私。いつもそう。なぜだか未だに桔梗さんの着信を見つける度に小さく緊張してしまう。そんなことは恥ずかしくて口には出せない。すう、と小さく息を吸う私に菜々は歯を磨いてくる、と席を外してくれた。
「は、はい」
緊張して上ずった声が出てしまう。
「お前、声おかしくない?」
第一声がそれだった。耳に響く優しい低音。
「え、そ、そうですか? お酒を飲んでたからかな……」
呟いた私に通話先の空気が強張る。
「……誰と? まさかお前、外なの? ちょっと待て、今十二時前だぞ? 今どこだ?」
不機嫌さと焦りが混じったような声にキョトンとする。
「藤井? 今どこ?」
答えない私にイラ立ったように桔梗さんの声が大きくなる。
「えっ、あの。自宅です」
素直に返事をする。
「家で飲んでるのか? 珍しいな。お前、酒強くないだろ? ……ひとり?」
なぜか今度は拗ねたような、感情が読みとれない声が聞こえてくる。
「菜々とふたりです。今日は菜々が休みだったから泊まってくれるので」
私は桔梗さんの反応がよくわからずに、しどろもどろで返す。
「ああ、和田さんか。なあ、ちょっと和田さんと替われる?」
桔梗さんに言われて菜々を呼びに行く。桔梗さんと菜々は何やら楽しそうに話している。
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