好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
しばらくして菜々にスマートフォンを返された。再び耳に響く桔梗さんの甘い声。
「俺はお前の部屋に入ったこともないのに、和田さんが泊まるっていうのはちょっと妬けるけど」
「えっ……!」
スマートフォンから聞こえる桔梗さんの声にドキドキする。クックと桔梗さんの笑い声が耳元に響いてカアッと頰が熱を持つ。
「あ、あのっ、べ、別にいつでも来ていただいても」
焦る私に更に笑う桔梗さん。
「冗談だよ。でもお前の部屋を見たいのは本音だな。……メリークリスマス、藤井。それが言いたかったんだ」
ふわ、と電話の向こうに桔梗さんの微笑みが見えた気がした。
「メリークリスマス、桔梗さん。……ありがとうございます。あ、あのっ! 明日って、もし、もしお疲れじゃなかったら渡したいものがあるんですが、会いに行ってもいいですか?」
ギュッとスマートフォンを握りしめて、一気に言う。お酒の勢いと菜々の援護を借りる。桔梗さんの返事を待つ時間がとても長く感じた。
「いいよ。俺もそう言おうと思ってた。まさかお前から言ってくれるとは思わなかったから……嬉しい。クリスマスプレゼント、貰ったな」
嬉しそうに弾む声を聞いて、身体から力が抜けた。私の顔も緩む。ドクンドクンドクン、と鼓動が走り出す。
「遅くなったらごめん、できるだけ早く帰るから。でも俺が会いに行くからお前は自宅で待ってて」
心配性な面を見せる桔梗さん。
くれた言葉は私の素敵なクリスマスプレゼントになった。
電話を切った後、涙目になってしまっている私を菜々が茶化したのは桔梗さんには内緒だ。
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