好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
あっという間に年末が過ぎて、駆け足で新年がやって来た。
今までの少なかった積雪を取り戻すかのように年末にかけて増えた積雪は、この時期らしい風景を実感させる。道路を行き来する除雪車、スキーウェア姿の小さな子どもたちが嬉しそうに雪を掬う。
桔梗さんはこの年末年始くらいは帰ってきなさい、と実家のご両親にこっぴどく怒られたらしく、慌ただしく東京に向かっていた。どうやらここ数年、ほぼ帰っていなかったらしい。
「もういい大人なんだから気にしてくれなくていいのに」と空港まで見送りに行った私に出発間際までぼやいていた。「次は一緒に帰ろうな」と私の耳のピアスに触れながら。
桔梗さんにいただいてしまった高価なクリスマスプレゼントは毎日私の耳を彩っている。
高価だし大切だし恐れ多くてどうしよう、と思っていたのだけど「つけてほしい」と桔梗さんに懇願されて毎日身に付けている。貰った直後に「高価すぎていただけません」と抗議したけど完全に無視されていた。
私がプレゼントした細めのターコイズブルーのネクタイを桔梗さんは気に入ってくれていた。ネクタイピンは毎日身に付けて、ネクタイは何度も使ってくれていた。自分が贈ったプレゼントを毎日身に付けてくれている姿を見ることが、こんなに嬉しいとは知らなかった。胸の中が温かいものでゆったりと満たされる。

桔梗さんは私に初めての感情をたくさんくれる。
プレゼントをもらった日以来、桔梗さんはふたりの時や誰も見ていない時、支店でもそれ以外でも、ことあるごとに私の耳元に輝くピアスに触れるようになった。

『藤井が俺のものだって実感している』
私を赤面させる目的としか思えない言葉を吐く桔梗さんに、私はいつも振り回されている。
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