好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
桔梗さんは私の穏やかな日常をあっという間に引っくり返して、誰のことも懐に入れるのが苦手な私のテリトリーにぐいぐい入ってきた。私が築いた防御壁と、人前での仮面をあっさり見破った。
仕事モードの桔梗さんは悔しいくらいにスマートでカッコいい。その容姿は言うまでもなく。だけど普段の桔梗さんもそこにはきちんと存在している。彼の素の魅力を出して仕事をしている。
人を惹き付けてやまない人が、選んでくれた女性がどうして私なのだろう。
どうして私みたいな面倒な可愛いげのない女を選んだのだろう。
彼は私に何を望むのだろう。
私は彼に何をしてあげたらいいのだろう。
悩んでばかりだ。
「なあ、藤井」
カチャリ、とカップをソーサーに置いて桔梗さんが私の名前を呼ぶ。
「好きだよ」
「今日は寒いな」というかのように穏やかな声で、ゆったりと魅惑的な笑みを浮かべて桔梗さんは私に言う。
カシャンッ!
私の手からカフェオレのスプーンがテーブルに滑り落ちて高い音を立てる。跳ねる飛沫が指にかかる。カフェオレが少し冷めていて良かった。
「きゃっ……!」
「大丈夫か!? 火傷してない?」
瞬時に心配そうな表情で私の指を紙ナプキンで拭う桔梗さん。その焦った美麗な顔を私は睨む。
「熱かった? 指、痛い?」
私の視線に検討違いの言葉を吐く桔梗さん。
「何、こんなところで、そんなこと、言ってるんですか!」
頰が熱い。絶対に私の顔は今、みっともないくらい真っ赤だ。
「ああ、そっち? ハハッ。俺、告白して怒られたの初めて。やっぱり好きだわ、藤井」
悪びれもせず少年のように明るく笑う桔梗さん。
「い、意味がわかりません! こんなところでそんなこと言わないでください!」
むきになって叫ぶように反論する私。
ああ、もう! 本当にいつも振りまわされる。
「いいじゃん、思ったから言いたかったんだよ。なあ、藤井? お前はいつ、俺に伝えてくれる?」
茶化した雰囲気を一瞬で消し去る。
ひた、と真剣な焦げ茶色の瞳が私を見据える。その目が切なげに揺れる。
仕事モードの桔梗さんは悔しいくらいにスマートでカッコいい。その容姿は言うまでもなく。だけど普段の桔梗さんもそこにはきちんと存在している。彼の素の魅力を出して仕事をしている。
人を惹き付けてやまない人が、選んでくれた女性がどうして私なのだろう。
どうして私みたいな面倒な可愛いげのない女を選んだのだろう。
彼は私に何を望むのだろう。
私は彼に何をしてあげたらいいのだろう。
悩んでばかりだ。
「なあ、藤井」
カチャリ、とカップをソーサーに置いて桔梗さんが私の名前を呼ぶ。
「好きだよ」
「今日は寒いな」というかのように穏やかな声で、ゆったりと魅惑的な笑みを浮かべて桔梗さんは私に言う。
カシャンッ!
私の手からカフェオレのスプーンがテーブルに滑り落ちて高い音を立てる。跳ねる飛沫が指にかかる。カフェオレが少し冷めていて良かった。
「きゃっ……!」
「大丈夫か!? 火傷してない?」
瞬時に心配そうな表情で私の指を紙ナプキンで拭う桔梗さん。その焦った美麗な顔を私は睨む。
「熱かった? 指、痛い?」
私の視線に検討違いの言葉を吐く桔梗さん。
「何、こんなところで、そんなこと、言ってるんですか!」
頰が熱い。絶対に私の顔は今、みっともないくらい真っ赤だ。
「ああ、そっち? ハハッ。俺、告白して怒られたの初めて。やっぱり好きだわ、藤井」
悪びれもせず少年のように明るく笑う桔梗さん。
「い、意味がわかりません! こんなところでそんなこと言わないでください!」
むきになって叫ぶように反論する私。
ああ、もう! 本当にいつも振りまわされる。
「いいじゃん、思ったから言いたかったんだよ。なあ、藤井? お前はいつ、俺に伝えてくれる?」
茶化した雰囲気を一瞬で消し去る。
ひた、と真剣な焦げ茶色の瞳が私を見据える。その目が切なげに揺れる。