好きな人は策士な上司（『好きな人はご近所上司』スピンオフ）

だけど、どうして桔梗さんが私を好きになってくれたのかわからない。こんな面倒な私を、可愛げのない私を。
峰岸さんのように匂い立つような美人でもない。見惚れる程の容貌に誰よりも有能な男性の桔梗さんが惹かれる要素なんて私には皆無だ。
私に飽きてない？　
私と付き合ったこと、好きだと言ったことを後悔していない？　
桔梗さんに会う度に思ってしまう。自信がない私はいつも怯えながら桔梗さんの綺麗な目を見つめる。大事にされればされるほど切なくて苦しい。
だから、なのかもしれない。桔梗さんは私の下の名前を呼ばない。ほかの女性は、橘さんはすぐに下の名前で呼んだのに。ずっと以前、付き合う前に下の名前で呼ぶのを断ったから？　
どこかよそよそしい距離感の私たち。
キスをしたのも二回だけ。触れるだけの優しいキスだった。それはすべて後腐れなく私と離れるためかもしれない。
私が桔梗さんとの約束を果たしたら、別れを切り出されるかもしれない。私との関係を瀬尾さんには伝えているけれど、きっと周囲には隠してる。当然だ。同じ店内での恋愛は基本御法度だから。