好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
店を出た後、菜々とふたりでチョコを選んだ。
帰り際に渡したいから、かさばらないサイズのもの。私が大好きな札幌のチョコレート専門店のチョコ。以前、ふたりでお店の前を通りかかった時、桔梗さんが食べたことがないって話してくれたから。
小さく息を吐いて願いを込める。桔梗さんにチョコを渡して、菜々に言われたようにきちんと話ができるようにと。

バレンタインデー当日。
「藤井、俺にチョコは?」
いつものように呑気にふざけてくる上司。
「当支店ではバレンタインデーにチョコを渡す習慣はありません」
去年と同じように返事をする私。
内心、渡したい想いをひた隠しにする。「ぶれないな」と私と連れ添って歩きながら掠めるように桔梗さんの人差し指が髪をはらって、ピアスにそっと触れる。桔梗さんが綺麗だと褒めてくれてから伸ばし始めた髪は首筋くらいまでのボブヘアになった。
そのことに桔梗さんは気づいているだろうか。
ドクン。
私の鼓動が跳ね上がる。「最近ふたりで会えてないからな」と甘い目で私を見つめる桔梗さんの姿に胸がいっぱいになる。桔梗さんはいつもと変わらないのに、私だけが振り回されてドキドキしている。しっかりしなきゃ、と嚙みしめた唇が痛い。





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